【オルタのこだま】

[不機嫌な太陽と揺らぐ温暖化人為説を読んで]                                 武田 尚子


 年始以来の此処ニュージャージーの寒さは非常にきびしく,濱田氏の書かれた地球の寒冷化が実現し始めているのではないかと思うようでした。それをまるで裏書きするかのように,Ⅰ月8日のNYタイムズには,次のような記事が載りました。

 「1月7日朝のセントラルパークは,過去118年間に最低の5度Fと いう低温を記録しました。他のアメリカとカナダの諸都市でも,記録破りの低温が続きました。しかも冬はようやく始まろうかという時に此の寒さです。この酷 寒の今週以前,既に米国の東海岸は雪嵐に見舞われ,英国の南西部はモンスターウエイブに、ヨーロッパも滅多にない悪天候の襲来を受けています。」

 「天候は我々が容易に予測したり理解することのできないやり方で,変化しています。北極の渦巻き(旋風)には、以前にも異変は有りました—もっとも劇的な例では,セントラルパークの気温が,1921年3月に,14時間内に82度から26度に低下したことがあげられます—歴 史を通じて存在した破滅的な洪水や、熱波や大吹雪と同様な異常です。専門家は、今の北極旋風の異常は,グリーンランドとアラスカの暖かい空気の影響ではな いかといいます。中には,北極旋風の変化は,近年はあたりまえになったという人もいます。英国の気象学者は,10月以来の英国のきびしい嵐は,サハラ砂漠 の空気が,大西洋北部に立ち往生したせいではないかといっています。」(瞥見したところではこれらの説には多くの反論が有るようです。武田)
 
 「世界中の気象学者の強調しているの は,かっては一世紀に一度というようなまれな頻度で起っていたきびしい気象状況が,今ではもっと頻繁になり,それも次第に大きな影響をもたらすようになっ たということです。気象変化の脅威は現実のものであり,我々の政府は極端な気候のために起こされる災害や混乱にしっかりそなえをしなくてはなりません。次 の災害をこれまで以上に悪化させないために常識を活用して,あらゆるリスクファクターを攻めて備えなくてはなりません。(2014年1月8日NYタイムズ)

 2014年の年明けに経験しているこの寒さが、歴史に残る低温であるなどとは認められていません。しかし
温暖化対策への声ばかりが高く,寒冷化へのきざしが、政府をはじめほとんど全く顧みられないのがアメリカの現実であれば、上記のNYタイムズの記事は,少なくとも主流メジアにも,まさに濱田さんの警戒していられる寒冷化による世界の苦境への目を開いている人の存在を知らせてはくれます。

ゴア氏の「不都合な真実」はずっと前に私も見て,かわいそうな北極グマに同情したものですが,ゴアさん自身が信じないことをあの映画にのせたとは思えません。
私はゴア氏が,ブッシュのイラク戦争に 強く反対した時から,彼の誠実さを買っていた一人なのです。しかし彼の‘不都合な真実’が全体としては英国で評価されながらも若干の誤りを指摘されたとい うことを読んだ記憶はあります。彼の素顔は全く知りませんが,此処まで温暖化対策が流布している今,彼のような政治家こそ、温暖化ではなく寒冷化の支持者 になって,強力な政策を打ち出してくれればよいなどと,ありそうもないことを考えたりもするのです。

グリーンハウスガスが,人体の健康に危 害を与える限り,ある程度の温暖化対策はどうしても必要と思います。しかし残念なことには、温暖化による気温上昇を,寒冷化による気温低下で防げるほど, 両者の綱引き状態は理想的ではないようです。もしこんな両者均衡の綱引きが実現したなら,諸国は温暖化や寒冷化対策の膨大な経費を節約して,もっともっと 有効に使うことができるでしょうにと,素人は夢のようなことを考えてみたりします。

浜田氏のいつもながらの明快な論考で,私は今回も多くを教えていただきました。最重要な点は少なくとも三つ有ると思いました。
  
 其の第一は,火力発電から放出される 炭酸ガス他を含むグリーンハウスガスが,実際の温暖化要因のなかでは微々たるものでしかないということ。第二に,それにも関わらず,健康への影響を主たる 正当化の理由にして,核エネルギー生産プラントの建設や増設が,日米でも,他の国々でも,さかんにおこなわれていること。第三に温暖化対策に夢中になっ て,寒冷化がもたらす将来への影響,ますます増加する地球人口を抱えて,農地や農作物の欠乏による大飢饉などへの対策が全く忘れられている、あるいは実施 されないでいることでしょう。温寒論争はまだまだ続きそうですが,浜田さんのいわれる通り,地球温暖化説と寒冷化説を共に,センセーショナリズムを排して 吟味すべきときだと思います。おそすぎないうちに。(2014年1月14日) 

         (筆者は米国・ニュージャージー州在住・翻訳家)

最新号トップ掲載号トップ直前のページへ戻るページのトップバックナンバー執筆者一覧