≪連載≫日中間の不理解に挑む(5)

「中国人の誤解 日本人の誤解」

棚田 由紀子

 フランスの極右政党「国民戦線」が、EUのヨーロッパ議会選挙で3分の1近くの議席を獲得し、最大勢力になる見通しだと報道された。EUが抱える問題の根深さを思うと共に、民族差別や自国優位主義が広がらないことを願うばかりだ。

 東アジアは東アジアで、落ち着かない雰囲気が漂う。東シナ海、南シナ海、あっちでもこっちでも海の上での攻防が続く。何か変化があると報道され、相手国に対して猜疑心や警戒心を抱き、それが不信感や嫌悪感につながるのは、ここ何年間で何度も目にし耳にしている。

 アイツラハ シンヨウデキナイ。ヤラレルマエニ ヤッツケロ。

 すべての諍いは、相手への不信感や嫌悪感から生まれる。

 為政者同士の駆け引きが外交においては必須であることは、よく分かる。強気に出ないといけない場合があることも、よく分かる。だからといって、一般市民までが強気に出て、他国を嫌悪する必要はないだろう。今こそ、異なる国の市民同士が、お互いの真の姿を見せ合い理解し合うことが本当に大切だ。

 しかし、私のような日本に住む日本人が、中国や中国人について、その本質を知ることはなかなか難しい。日本で報道される中国のニュースといえば、反日デモやPM2.5、コピー商品や詐欺まがいの商売といった、あまり好ましくないものが多い。わざとそういうニュースしか流さないのかな、と勘ぐってしまう程だ。

 そんな中で出会ったのが、『中国人の誤解 日本人の誤解』(中島恵/著、日経プレミアムシリーズ)。ニュースや新聞では伝えられない、中国人の日本に対する理解や誤解、それに対する著者なりの考えが述べられており、気付かされることが多かった。 プロローグに、こんな一節がある。

 「多くの中国人は強い被害者意識を持っていると思います。それはかつて日中戦争で日本にひどく痛めつけられたという被害者意識であり、そうした意識は戦後70年近く経っても、まだ中国人の心の奥底から抜けていません。そう思い続けるのは教育のせいもあるかもしれない」

 中国人がそんな風に感じているとは、大多数の日本人は露ほども思っていないだろう。攻めた側と攻められた側の認識は大きく隔たっており、攻められた側はそう簡単には水に流せないという当たり前のことを忘れてはいないだろうか。

 さらに著者は、中国人の中には「もう1回日本と戦争して、今度は勝ちたい」と思っている人がいる、とも書いている。教育の影響もあるのかもしれないが、びっくり仰天だ。

 そこまで中国が日本を意識するのは「中国人が唯一、引け目を感じている国が日本であるから」だという。小さな国・日本が、戦争で中国に大打撃を与えたばかりか、文革で大混乱に陥った中国のすぐ隣で、コツコツと働いて驚異的なスピードで経済発展を遂げたからだそうだ。

 中国は、今や日本を追い抜いて世界第2位のGDPを誇る大国。投資に走り、日本で買い物しまくる富裕層の姿も報道されている。元気のない日本と比べて、勢いのある中国。そのうちに負かされてしまうんじゃないか・・・と、引け目を感じているのは日本の方だと思っていたら、中国もそう感じているという。

 似た者同士なのに、お互いに相手を異星人くらいに思っている両国。

 どうすれば、中国の一般市民にリアル日本を伝えられるのか。どうすれば、日本の一般市民にリアルな中国の「老百姓」の姿を伝えられるのか。これからもずっと考え、行動していきたい。

 (筆者はCSネット事務局スタッフ)

※この原稿は市民社会ネットワーク(CSネット)メールマガジン 2014年6月号から著者の許諾を得て転載したものです。


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