【運動報告】

オルタナティブな働き方を保障する
ワーカーズ・コレクティブ所得保障共済

島田 純子


 メンバーひとり一人が、出資・経営し労働も担うワーカーズ・コレクティブ(以下W.Co)という働き方を皆さんはご存知でしょうか。
 1971年に設立された生活クラブ生協・神奈川の組合員活動から、「オルタナティブな働き方」であるW.Coが1982年に神奈川で誕生しました。《企業組合「W.Coにんじん」(人人)》

<働く人の協同組合 ワーカーズ・コレクティブ>

 W.Coは、素性確かな消費材を共同購入する活動を基本として、アンペイドワーク(家事・子育てなどの無償労働)を担っていた女性たちが中心となり、雇用・被雇用の関係ではない「もうひとつの経済」システムをつくりあげてきました。

 地域で暮らす人たちが生活者の視点から地域に必要な「もの」や「サービス」を非営利市民事業として事業化するために全員が出資し、経営に責任を持ち、労働を担う働き方がW.Coであり、W.Co運動は、自分たち自身が主体となり人と人が結びつき協同して、W.Coの活動・事業を通じ、地域を豊かに住み・暮らすことのできる「まち」につくり・かえていくことを目指しています。

 またW.Coは、その人の価値観や生活状況によって働き方を選び、働くことで自分自身を取り戻すことができる働き方、そして雇用・被雇用の関係ではなく、パートナーシップに基づく共同の関係性をもった働き方でもあります。

<自前の労働保障の必要性>

 現在の日本には雇用労働を前提にした労働保障制度はありますが、W.Coのように雇用関係ではない働き方を保障する制度はありません。W.Co第一号を生み出した神奈川では、メンバーが継続して働き続けることを支援する「W.CoがW.Coを支える共済制度」「自前の労働保障制度」が必要と考え、神奈川W.Co 連合会の自主共済として「W.Co共済」を誕生させました。

<自主共済から小額短期保険へ>

 神奈川W.Co 連合会では1989年に「W.Co共済会」を設立、2001年「新W.Co共済」を発足させ、2004年には、加入者が2016人となり、再共済でのリスク回避をやめ、自らリスクを負っての自立を検討し2005年文字通り自前の労働保障として自立した「W.Co共済」となりました。

 しかし、2005年の保険業法改定、2006年の「新保険業法施行」に伴い、新保険業法においては、W.Co共済のような「根拠法のない共済=無認可共済」は認められず、「W.Co共済」の存続を考えなくてはならなくなりました。

 「W.Co共済」の設立趣旨、理念、目指すものが継承されること、W.Coメンバーにとってより使いやすいW.Coの労働保障にふさわしいものであることを重視し、保険業法の改定に対応するにはどうすればいいかという検討が行われました。

 試行錯誤の結果、これまでのW.Co共済の給付データーを根拠に現在と同様な制度内容をもって少額短期保険としての事業登録をめざし、関東財務局と交渉を開始しました。
 そして、交渉開始から9か月後神奈川ワーカーズ・コレクティブ連合会が全額出資し、ワーカーズ・コレクティブ共済株式会社を設立、2012年3月27日少額短期保険事業を登録、事業を開始しました。

<ワーカーズ・コレクティブ所得保障共済とは>

 W.Co共済は、「継続して働くことを支援する」ことを目的としています。保障内容は「就業中の傷害保障」と「休業保障=所得保障」という「労働保障」に絞り、雇用によらない働き方や短時間労働の方など全ての働く人にとって必要かつ有効な保障制度になっています。加入者の範囲は、申し込み日において、満15歳以上の方とし上限は設けていません。健康で正常に就業している方とし、「健康で正常に就業している」とは、勤労が可能な状態で就業していることであり、持病があっても、障がいがあっても働いている人は健康な方とします。現在は基本的にW.Coメンバーのみを対象としています。保険期間は1年間、更新は自動更新、掛金(保険料)は、1ヶ月1,000円としています。

 つまり、W.Coメンバーであれば年齢・性別にかかわらず一律掛け金は1,000円ということになります。給付金(保険金)は「就業中の傷害保障」の場合一律ですが(例えば通院保障2,000円/日が1日〜90日)、「休業保障」は一律ではありません。申請者の過去半年分の平均分配金日額を基本とし、休業日数よって給付金額が決まります。給付金が40,000円以下の場合は原則として診断書は不要としています。
(詳細は当社ホームページ参照 http://www.wco-kyousai.com

<事業開始から2年たった私感>

 小額短期保険事業登録を準備していた当初、「共済ではなく保険になるのか」、「非営利市民事業のW.Coが営利を目的とする株式会社を経営するのか」といった様々な意見がありました。しかし、自主共済時には他県のW.Coは加入できませんでしたが、小額短期保険になったことで加入可能になりました。現在北海道から大阪まで約2,600名のワーカーズメンバーが加入しています。
 また、会社名を「ワーカーズ・コレテブ共済株式会社」とし「ワーカーズ・コレテブ所得保障共済」としたことでわかるように小額短期保険というカテゴリーになったとしても中身は「共済」そのものであり、不幸にして病気やけがになり給付を受けることになったメンバーを元気に働けるメンバーが助ける相互扶助の制度です。とあるW.Coのメンバーが給付を受けた際に、自分のW.Coメンバー(全員加入している)に皆さんのおかげで給付金をいただきましたとお礼をいわれたそうです。この「お互い様の助け合い」の関係が全国に広がることこそW.Co共済の真髄といえます。

 W.Co共済の説明をしていくうちに「保険」は特殊な売り買いだと実感しています。基本的に掛け捨ての保険の場合、代金(保険料)と引き換えに商品を受け取るのではなく、何かあったときのリスク(病気やけが)のための安心料として、リスクが発生しなくても(病気やけがをしなくても)払い続けるわけです。医療保険に限っていえば日本は公的保障が存在します。公的保障の内容、自分が求める保障は何かなどを考慮して「安心料=保険料」と「手元に残すお金=貯蓄」のバランスを考えていく必要があるのではと思います。W.Co共済は掛け金と保障のバランスを考えた結果、掛け金1,000円が妥当と考えています。

 最後に共済でも保険でも使わないことが一番の幸せといえます。それならば自分が支払った掛け金・保険料はどのように使われているのかを考えていただきたいと思います。
 わたしも10年以上W.Co共済に加入していますが、1回も申請していません。これまでのわたしの掛け金は「W.Coのメンバー同士の助け合いに役立ったということ」、「W.Co運動を支えたこと」だとはっきりいえます。「お金に色はついている」、できれば助け合いという色をつけていきたいと日々加入促進のために全国をまわっています。

 (筆者はワーカーズ・コレテブ共済株式会社・代表取締役)


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