【ジェンダー】

ジェンダーの平等を目指して(9)

武田 尚子


■フェミニズム第四波と運動のゆくえ

 先月のオルタ127号では、フェミニズム第三波が今も続いていると報告した。しかし、現実には、それに続くフェミニズムの運動はしばし休止したかに見えたものの、第四波の出現や存在を知らせる動きがあちこちで見られる事を知った。この先に進む前に、強力になりつつある、ユニークな第四波について述べておきたい。

 フェミニズムの波は、全体として、それに先行した活動への応答として、新しい意図を持つ運動になった。ちょうど、べティ・フリーダンの“女性の神秘”に力を得た第二波のフェミニズムが、主として中産階級の白人女性に焦点を当て、人種の問題や女性の性の問題、堕胎や避妊やレイプの問題にほとんどふれなかった事が第三波で反省されたように。

 先月号オルタの、ジェンダーの拙稿の中、フェミニズム第三波の記述に、この機会に少々付け加えておきたい。
 フェミニズム第三波は20世紀後半の、第二波の女性たちの成し遂げた経済上、職業上の拡大したパワーと地位の向上、さらに20世紀後半の情報革命による大量の情報伝搬なしにはあり得なかった。第三波初期のフェミニストの若干は、文字通り第二波フェミニスの娘たちであったし、1992年に組織された THIRD WAVE DIRECT ACTION CORPORATION は、1997年には THIRD WAVE FOUNDTION と改名され、ジェンダー、人種、経済、社会上の正義の追求だけでなく、たとえば家庭における労働の、性差による分類に、問いを投げ、是正を求めようとした。

 2001年の11月、テレビの暴力場面をみていた心理療法者のキャスリン・シャーフは、突然、今こそ女性を集める時の潮が熟したという天啓を得た。共鳴した女性11人とともに、世界の平和のために地元の事件を記録していた5,000人の女性に呼びかけ『GATHER THE WOMEN-』というウェブサイトと情報交換の場を創った。地元エジプトのピラミッドの周りに集い、あるいはアラスカで、ろうそくをともして徹夜の討議をする女性たちのエネルギーは、以来女性たちを結びつけるいくつものグループを生み、彼女たちは精神的、宗教的なリーダーのもとで世界について学び、社会的な行動では相互に助け合うようになった。

 これらの会合で女たちは一人一人が祈り、瞑想し、種族や宗教の枠を超えての女性をつなぐ普遍的な精神性を感じていた。彼女らは又、忍耐と相互関係と自然にたいする尊敬に根ざした新しい女性パワーのモデルを模索していた。今日の世界をおおう戦争と貧困をいやすための重要な価値であると信じて。

 これ迄のフェミニズムは決して平坦な道を歩んできたわけではない。第一波のフェミニズムは、女性の投票権確立に向けられた運動であった。第二波はフリーダンやグローリア・スタイネムに導かれて、女性の法律上、経済上の平等を目指した。こうした理念は、20代30代を中心にした第三波のフェミニストたちの個人主義と衝突した。この新しいフェミニストたちは、セックス、男性、衣服、ゲイ文化などの表現する『GIRLIE CULTURE』を歓迎しながらも女権を擁護していた。

 けれど今日のそれはいくつかの点で、以前のフェミニズムと様相を異にする。その一つは、それが、これ迄と違い、怒りでなく喜びを原動力としていることだ。それは又、個人的な関心よりよほど広い、しばしばグローバルな規模の問題に眼を向ける。作家キャロル・リー・フリンダーズはいった。『フェミニズムはそれに固有の精神性を誘発するとき、燃え上がります。つまりそれ以外の事も起こりうるということです』さらに続けて『ユダヤ人も、カソリック信者も、仏教徒も、ヒンズー教徒も、ここでは皆一堂に集まって、それぞれに祈っていますね。新しい宗教が生まれるのです、つまり女性の精神性(霊性)という宗教が。』

 フリンダーズも、そのほかの作家たちも、女性が神聖なものとふたたび結びつくようにと何年も求めてはきたが、そのきっかけになったのは9/11(*)だという点ではほぼ一致している。それ以前はワシントンのナショナル大聖堂で年2回行われた女性の精神性(霊性)の会議である SACRED CIRCLES は、個人の精神性に焦点を当てていた。しかしその後、会議は宗教を原因とする、個人を超える暴力に眼を向けさせようとしている。
(* 9/11は2001年の9月11日、NYのツインタワーがイスラムのテロリストグループ、アルカイダによって爆撃され、3,000人の死者を出した事で、米国本土が直接の襲撃を受けた最初の歴史的な大事件になった)

 会議の指導者オグデンはいう『今の世の中は、何かがひどく間違っているという感じがあります。コミュニティが分裂し、人々がアラブ系やほかの伝統を持つ人々に疑いを持つようになりました』。彼女の企画委員会は、それ以来、諸宗教の融和を高めることをめざしているという。最近の Sacred Circle の会議は、政治的、経済的、宗教的な差異を問題にするとき、同情と忍耐をもってすることを求めている。

 9/11を巡る問題における女性の宗教的権威者の欠如に驚いたデラ・メリマンは、主要宗教の女性リーダーの国際的なネットワーク作りに加わリ、2002年の10月には、スイスのジュネーブで、Global Peace Initiative of Women における Religious and Spiritual Leaders を発足させた。宗教上の女性リーダーによる平和運動である。

 国連と結びついて、このイニシアチブは国連の平和計画に女性リーダーたちの協力を望んだ。具体案のなかには、異った宗教を持つ若い女性たちが、例えばエルサレムのように、宗教の分裂に苦しむ土地との情報交換を促進させようとするものもある。
 女性たちが既成の制度に縛られず、その外で自由に活動できることが、この運動ではプラスになっている。多数の女性が、国連決議案1325に従っているが、それは世界中の女性と平和と安全に関する最初の決議案であり、国連理事会では全員一致で可決し、様々な成果をあげている。

 一例を挙げると、オメガという、フロリダに本拠を持つグループは健康問題、環境問題、女性のリーダーシップほかの観点から、女性の社会的な意識の目覚めを促し、その活躍を援助している。

 例えば彼等は本年2014年9月に次の会議を開く。
 WOMEN&POWER CONFERENCE: WOMEN & MEN: THE NEXT CONVERSATION 女性パワー推進会議:女性/男性:次なる、両性間の対話(仮訳)

 その会議の紹介はこんな言葉で始まる。
 『今日という時代は、女にとっても、男にとってもー我々の個人生活または人間関係においても、家庭や職場や世界のなかで我々が果たしている役割や期待においても、日ごとの興奮と激動に満ちた、混沌の時節であります』

 『さてこの(2014年9月)会議は、如何に他の人々とともにわれわれが全的な人間として生くべきか、愛すべきか、働くべきかを追求し、さらに新鮮で大胆な会話のための機会を探るものであります。会議の行われる週末には、我々は作家や、スポーツマンやビジネスリーダー、芸術家、ヒューマニティを推進し、我々が何世紀にもわたって自らを閉じ込めてきた壁を突き破って出ようとする活動家たちから、いろいろと学ぶことになります。』

 『スピーチや、座談会や、体験報告、音楽、話された言葉などにたいして、われわれは次の態度で臨みます。

・好奇心と尊敬を持って、深く耳を傾ける。
・自己弁護や他者への攻撃を超え、共感と創造に向かって動く。
・人間の健康な相互関係、家庭、職場での人間関係、経済や社会へのヴィジョンを拡大する。
・女と男の経験の差異を認め、同時に、その類似点や相互依存を確認する。
・我々の暴力的な文化を、いたわりの文化に変えてゆくための方法を想像し、具体的な計画をする。

 我々は360度の人間体験を抱擁する事によって、インスピレーションと新鮮な展望を持って会議を去るでしょう。』

 MICHELE BERTRAN
 DIRECTOR, OMEGA WOMEN'S LEADERSHIP CENTER
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 2005年に、パイシア・ピイは、フェミニズムに社会的な正義と精神性を結びつけて、第四波の存在を初めて擁護した人である。

 2011年には、ジェニファー・ボームガードナーが「娘たちを仕事にだせ」運動に刺激されて2008年に始まった運動を重要であると見なし、オンラインの活動を始めた。それ以後「子供たちのサービス」をうたったドウーラ・プロジェクトが生まれ、さらに堕胎後の女性の話し合いライン、再生-生殖の正義、特大サイズファッション、性転換、男性フェミニズム、個人が肉体を売るしごとへの支持、フェミニズム普及や人種偏見問題のブログが次々と現れるようになった。

 2012年から2013年に『反逆するすべての女たち』を書いたキラ・コクレインは英国ガーディアン紙の特別記事執筆者の一人である。彼女によると、英国およびその他の何ヵ国かで、フェミニズム第四波は活発であった。彼女は論説の中で、街中での女性への嫌がらせ、セクシュアルハラスメント、職場での差別、肉体侮辱、メディアのイメージ、オンラインでの女性嫌悪、公共の輸送機関上での襲撃など、女性の受ける様々な被害を描写し、個人のうけるこうした体験は第三波までに知られていたが、それが今テクノロジーの長足の発達によって女性一般の体験である事が広く確認された結果、政治問題として解決できるはずだと結論する。

 キラ・コクレインには、40年にわたるガーディアン執筆者としての経験を書いた『Women of the Revolution -2010』のほか、女性ジャーナリズムの粋を集めた文集の編集もある。

 彼女は第四波のフェミニストとして見逃せない人であるから 前述の著作『反逆する全ての女たち--All the Rebel Women』の最後の締めを紹介しておこう。

 『2013年の夏、辺りを見回すと、至る所で第四波が起りつつある事に気づきます。女たちはその眼を、『女性偏見、女性嫌い』に対して開きつつあり、抵抗の叫びをあげているのです。

 英国でもそれ以外の国々でも、女たちは何千年もの抑圧と疎外と、レイプと、暴力と、貧窮と恥辱に対して抵抗しているのです。世界中の15歳から44歳の女性は、ガンやマラリアや戦争や交通事故などをみなひっくるめたよりも、男性の暴力によって死ぬか不具にされる事が多いという事実に対して反抗しているのです。

 彼女らは又、世界中の国会で、女の議員は21%程度しかいない事に対して、そして多くの国ではそれ以下の声しかないことに対して立ち上がっているのです。世界のひもじい人口の60%は女であり、安全でない堕胎手術のために47,000人の女が毎年死んで行く事に、さらに堕胎の結果何千人もが、傷つき、中には一生快癒しないでいる事実に対して立ち上がっているのです。

 毎日のように新しいキャンペーンが始まりますが、それはしばしば女性によって創始されています。彼女らは性偏見が如何に不当なことであるかを今発見しつつあり、それに対して怒りと敏速さと、活力で応えているのです。この波は二つの問いを提起します。“なぜこれは今起っているのだろう? そしてそれは世界をどのように変えるのだろうか?”』
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 オンラインによる組織やウェブサイトには、EVERYDAY SEXISM, UK FEMINISM, RECLAIM THE NIGHT, ONE BILLION RISING などがあり、さらに、“LOSE THE LADS' MAGS PROTES”,“MANY OF THE LEADERS”など、10代から20代の若年層グループをも出現させた。

 2014年には、べティ・ドッドソンが現れて、自分は第四波フェミニストであると宣言する。彼女は第三波でも親セックスのフェミニスと運動で知られていた。第三波は性的な問題で自分と立場を異にするため、自分は新しい立場-第四波を選ぶのだ。と述べている。

 2014年には VAGENDA という本を書いた2人の女性、ルーシー・コスレットとホリー・バクスターはやはり自らを第四波のフェミニストと考えていた。彼女らもセックスの率直な受容と理解を示して、第四波を代表する。

■ EVERYDAY SEXISM PROJECT(毎日の性差別対策プロジェクト)

 これは2012年のソーシャル・メディア・キャンペーンとして、英国のフェミニスト著述家、ローラ・ベイツが始めた。このサイトの目的は、世界中のソーシャルメディア寄稿者による日々の性差別−性偏見の体験の実態レポートを記録するドキュメント作りである。ベイツは日常の、卑近な性差別体験をのせることができる公開討論の場を確立したのである。ベイツはこの目的について述べている。『このプロジェクトはけっして性的偏見の問題を解決しようとするのでなく、解決すべき問題のある事を広く人々に知っていただくための第一歩なのです。』

 このプロジェクトは非常な成功を収めたので、ベイツは本を著した。 『EVERYDAY SEXISM』は近づきつつあった第四波フェミニズム運動の真価を洞察し、このプロジェクトを通して女性たちが分かち合ってきた、これまで語られた事のない物語に光を当てた。

 『EVERYDAY SEXISM PROJECT』は、フェミニズム問題に対して、以前にはなされた事のなかった会話をオンラインで開いたために、第四波にとっては非常な重要性を持っている。ベイツのこのプロジェクトと最近出版された彼女の本は若人をフェミニスト問題に参加させる多数のドアを開いた。ベイツは一般の人々に対して、変化へのマニフェストと、現代の性差別問題への分析を与え、それ迄のフェミニズムの波が変化への機会を与えなかった事、そしてそのためにこそ第四波がいま必要なのだと論じている。

 こうして第四波のフェミニズムを擁護するフェミニストたちは、テクノロジーという道具を使いこなし、オンラインで、強力で活発な運動を広げる事に注力し、成功しつつある。

 ではフェミニズムは第四波まできて、これからどこに向かうのだろうか? フェミニズムは目的を達して、次第に消えてゆくのだろうか?

 この問いに答えるために、英国ランカスター大学の社会学教授である、シルヴイア・ワルビー氏に登場していただこう。彼女の著作には家父長制理論、植民地化と不平等、ジェンダーの変遷ほかがある。『フェミニズムの未来』についての論考はいう。『ジェンダーのメインストリーミング化はフェミニストの原則の制度化を成功させるためのメカニズムである。ただ、そうする事はフェミニズムの目標をほかの議案に従属させるというリスクをはらんでいるのだが、これはワルビーがこれ迄には未解決の矛盾ではある。』

 『フェミニズムは死んではいない。フェミニズムは終わったという声にも関わらず、それは未だに力強く脈打っている。フェミニズムは成功した。しかし未だ多くの不平等が残っている。フェミニズムは強力な新しい形をとっているのだが、そのためにそれと気づかない人もいるのだ。』(シルビア・ワルビー)

 ワルビーの「フェミニズムの未来」はフェミニズムの達成点を評価しながら、新しい挑戦を投げかける。ランカスター大学で、ユネスコの議長としてジェンダー研究に携わるワルビーは、フェミニズムは今も栄えていて、21世紀の生活にとっては不可欠であるという彼女の中心テーマをアウトラインする強固な方法論を持ちだす。

 彼女の論文は学術的には控えめすぎる点があるとしても、彼女の提出するケースは有無をいわさない。フェミニズムは今や政治的、国民的な全てのレベルに織り込まれていて、我々の課題はこの織り込みを 自らジェンダーとの交差性を意識しつつ、メインストリーミング(*)を通してジェンダーへのアプローチを継続してゆく事なのであると、ワルビールビーは述べるのである。
(* メインストリーミング—この場合、主流と結びついて、本流と共同、同化すること;武田仮訳)

 軍国主義の問題について、ワルビーは『フェミニズムは軍国主義を牽制する伝統を持っている。フェミニストは第一次大戦以来長年にわたって多数の戦争に反対してきた。戦争と軍国主義への反対はしばしば、国際主義と、極端な国家主義の拒否と結びついていた。最近でのフェミニズムの軍国主義との関わりでは、国連とともに働く事があり、平和維持のプロセスにジェンダーのイデオロギーを適用することである。
 要するにワルビーのいうのは、フェミニズムは全く単独で行動する事はなかった。それは常に、もっと強力なイデオロギーや制度や運動に結びついていた。2008年の財政危機の始りにあって、我々が極端な自由市場主義からネオリベラリズムへ向かう、グローバルな規模の交差路に直面した事を彼女はアウトラインしてみせる。彼女は、この危機的な時期にあたって、社会民主主義のプロジェクトが、完全にフェミニズムをパートナーとして包容するなら、フェミニズムの存立を維持できようというのである。

 もうひとつ考えられる未来図は、フェミニズム自体がどう動くかにかかっているとワルビーはいう。この先の挑戦は社会民主主義運動とフェミニズム運動とが効果的に結婚する事である。そうすれば人口の大半が、資本主義の改造と環境保護の危機、ジェンダーそのほかの不平等など、成功の可能性のある問題ととりくむことになるだろうから。容易でない仕事ではあるとしても。

 彼女の議論はなかなか有力であるとしても、メインストリーミングの問題は解決されないで残る。フェミニズムの未来は、既存の社会制度の外側にいる、反対的な勢力なのだろうか? そしてフェミニズムはワルビーがいったように『気づかぬ人もある』ほど影が薄くなって尚、フェミニズムといえるのだろうか?

 フェミニズムはこの後、ジェンダーの問題と成功裡に合流して、とりわけアメリカでは、綺羅星のような多数の女性を様々な分野の第一線に送りこみ始めた。第四波の説明のためにいささか遅れたが、次回ではそれをご報告できるはずである。

 (筆者は米国・ニュージャーシー州在住・翻訳家)


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