【オルタの視点】

急速に高齢化するアジア社会
—中国と韓国に焦点をあてて—(3)

田村 光博


 「急速に高齢化するアジア社会」と題した、三回シリーズの最終回です。中国の「人口問題」(少子高齢化問題、生産年齢人口問題など)と、それと関係する「観察」を行った前二回分に引き続き、今回は、その韓国編です。

◆ 1.日本を上回るスピードで高齢化する韓国社会

 65歳以上の老人人口7%が、その倍の14%に到達するのに要する年数(「倍化年数」)は、各国の高齢化スピードを表す指標となる。フランス(126年)などの例にみられるように、欧米諸国では、アジア諸国に比べて緩いスピードで、ゆっくりと社会が老年化してきた。しかし、日本は世界に類を見ない「倍化年数」(24年:1970→1994年)で、「高齢化社会(65歳以上の老年人口の比率が、総人口の7%超)」から、「高齢社会(同比率14%超)」に移行した。韓国も日本を上回る18年間(2000〜2018年)という短期間で、「高齢化社会」から、「高齢社会」に段階移行する。しかも、このプロセスに、世界最下位レベルの低出生率が重なるため、2050年には「その他の地域」を除いた、人口500万人以上の国家の中で、韓国が世界で最も老齢化した国になると予測されている。

<アジア各国、国民平均年齢ランキング(国連人口部 2015)>
 2015年予想:1位:日本(46.5歳) 9位:香港(43.2歳)
 2030年予想:1位:日本(51.5歳) 6位:香港(48.6歳) 10位:韓国(47.5歳)
 2050年予想:1位:その他の地域(56.2歳) 2位:韓国(53.9歳) 3位:日本(53.3歳) 5位:シンガポール(53.0歳)

●総人口 2030年がピーク、その後減少へ
 現在5100万人の韓国総人口は、2030年にピークの5200万人に達した後、2060年には4400万人にまで減少すると予測される(『世界と韓国の人口現況・展望』/韓国統計庁/2015年)。また下表に見られるように、2060年には、韓国総人口の40%余りを65歳以上の高齢者が占めると予想される。

            2015年     2030年    2060年
 ————————— —————————————————————
 総人口        5100万人    5200万人   4400万人
 65歳以上高齢者比率  13.1%(51位) 40.1%(2位)

●OECD加盟国中で、最低レベルの出産率
 「国連人口基金(UNFAP)における世界人口現況報告書」(2014)によると、韓国2010年〜2015年の合計特殊出産率(TFR:total fertility rate;一人の女性が一生に産む子供の平均数)は1.3人で、マカオ、香港(各1.1人)に続き、世界で三番目に低かった。2002年以来13年間、韓国はOECD加盟国中で、最下位の出生率を記録し続けている。
 韓国統計庁によると、2010〜2014年の韓国のTFRは1.23で、世界最下位レベルだった。一方、韓国産業研究院(KDI)が、OECD34カ国の人口構成を分析した結果、高齢化の速度(高齢化率)は、韓国が世界1位だという。

●世銀やIMF、生産年齢人口減少の抑制を訴える
 「60年までの世界経済長期見通し(2012)」と題された経済開発協力機構(OECD)の報告書は、今後の韓国における「生産年齢人口(15〜64歳)」の推移を、次のように予測する。
   72.5%(2011年)→ 52.3%(2060年)=20.2%の減少
 この20.2%という減少は、比較対象であるOECD加盟24ケ国および主要非加盟国の中で、最も大きな数字である。また、60年の生産年齢人口比率も、42ケ国の中で、日本(51.1%)に次いで2番目に低い数字だ。これとは別に、世界銀行(2015/04)は、韓国の2040年における生産年齢人口は、2010年に比べて15%以上減少すると予測する。
 このほか、国際通貨基金(IMF)も2015年4月に発表した報告で、韓国の生産年齢人口の減少に言及し、この問題が、韓国の経済成長に大きな影響を与えていると警鐘を鳴らした。2015年現在、韓国では100人の生産年齢人口が17.9人の高齢者を支えている(世界第54位)が、2060年には80.6人の高齢者を支える(世界第2位)ことになると予測する。

●経済団体、単純労働者の国内定住促進を要請
 韓国の「全国経済人連合会(全経連:The Federation of Korean Industries)」のシンクタンクである韓国経済研究院は、「移民流入増加の必要性と経済効果」(2014/12/14)と題する報告書を発表した。韓国の生産年齢人口は、2017年以降に全面的な減少が始まると予測されているためだ。同研究院は、2020年には60万5000人、50年には1182万1000人、60年には1530万2000人の移民が必要になると具体的な数字を上げ、生産年齢人口の減少がもたらすマイナスの影響を緩和するには、韓国政府が「移民受け入れを増加させる政策を制定すべきだ」と促す。そして、更に踏み込んで、「政府は技術移民を移民政策のトップに掲げているが、技術移民は対象人数に限度がある。そのため、政府は、単純労働人口の国内定住を促進するような移民政策を制定する必要がある」と提言する。

◆ 2.韓国年金制度をみると

 韓国の公的年金には「公務員年金」や「軍人年金」などいくつかの種類があり、サラリーマンなどの被雇用者の場合、会社と折半で保険料を支払っている。その中で、加入者数が一番多いのは、「国民年金」である。自営業者でも一律の保険料ではなく、所得月額の9%を自分で支払うシステムは、日本と大きく異なるという。
 「国民年金」加入率を所得階層別に見てみると、(1)上位所得層(月収400万ウォン/約40万円以上)の加入率は96.6%である。しかし、(2)中位所得層(月収100〜200万ウォン/約10〜20万円)では、加入率は60.7%と、格段と低くなる。そして、(3)下位所得層(月収100万ウォン/約10万円以下)になると、加入率は15.0%に激減する。韓国の年金制度の最大の問題は、国民年金の加入率が低いことで、31.1%(2015年5月時点)が、年金未加入者である(韓国統計庁)。
 また、積立金の枯渇問題を憂慮する人も少なくない。国民年金の積立金は決して少ない額ではなく、14年11月時点でGDPの30%にも上る。しかし、運用する国民年金基金運営部門の収益率が10%未満と低調で、物価の上昇などを考慮すると「元金はマイナスだ」とする評価もある。

●「公的年金」「個人年金」「退職年金」のいずれにも未加入が41.9%
 国民年金研究院は、各階層の老後の所得保障に関する研究において、「調査対象の41.9%が、公的・私的にかかわらず、どの年金にも加入していない」と発表した(2013年4月)。とりわけ女性や低学歴の人、単純労働者、農林業・漁業従事者において、「いずれの年金にも加入していない」ケースが多く、「これらの人々は、現時点でも経済的に困難なケースが多い上、老後も貧困に苦しむ可能性が大きい」と、同研究院は説明する。

●韓国年金制度への懸念
 韓国開発研究院(KDI)が先ごろ公表した「高齢化時代の国民意識」に関するアンケート調査によると、回答者の39.7%が、(1)「積立金枯渇により年金保障が得られないこと」を、最も懸念していることが分かった。年金積立金が43年から減少し始め、60年ごろに枯渇するとの予測を受けたものとみられる。次いで多かったのは、(2)「高齢者扶養のための税収増」の26.9%であった。以下、「福祉範囲の縮小」(12.7%)、「労働力不足」(12.1%)、「世代間格差の拡大」(8.3%)などが続いた。

●国際比較からみた韓国年金制度
 『2015 メルボルン・マーサーグローバル年金指数(MMGPI:Melbourne Mercer Global Pension Index)』(2015年10月発表。調査対象25ヶ国)において、東アジア三カ国(日中韓)を含め、アジア諸国は、押しなべて、最低のD評価(A、B+、B、C+、C、D、Eの7段階中。Eランク=記入なし)だった。アジア諸国の中で、Dランクを免れたのは、シンガポールだけで、C+評価(10位/総合指数64.7)である。

<アジア諸国の年金総合評価>
 10位:〈シンガポール〉C+評価=総合指数(64.7)十分性(55.7)/持続性(65.9)/健全性(77.2)
 以下、D評価国
 21位:〈インドネシア〉=総合指数(48.2)十分性(41.3)/持続性(40.1)/健全性(70.8)
 22位:〈中国〉=総合指数(48.0)十分性(62.7)/持続性(29.8)/健全性(50.0)
 23位:〈日本〉=総合指数(44.1)十分性(48.8)/持続性(26.5)/健全性(61.2)
 24位:〈韓国〉=総合指数(43.8)十分性(43.9)/持続性(41.6)/健全性(46.8)
 25位:〈インド〉=総合指数(40.3)十分性(30.0)/持続性(39.9)/健全性(57.6)

 オーストラリア金融研究センターとグローバル・コンサルティング企業マーサーは、2009年の11カ国から調査対象国を拡大してきた。同調査は、各国年金制度の「十分性(Adequacy)」=(40%)、「持続性可能性(Sustainability)」=(35%)、「健全性(Sustainability)」=(25%)を測定評価し、公的年金制度だけではなく、企業が実施している企業年金制度および個人貯蓄を含めた、老後所得にかかる保障制度全般を評価対象としている。そして横断的に比較した多角的・包括的な年金指数に基いて、7段階のランキング付けを行っている。

◆ 3.深刻な高齢者の困窮化と自殺

●高齢者10人中の8人が年金ゼロ、あるいは月額2万5千円以下
 韓国統計庁が発表した「2015高齢者統計」(09/24/2015)によれば、高齢者10人のうち8人は、老後を支える年金受給がゼロ、または、受給月額が25万ウォン(約2万5千円)未満だという。年金などの老後所得が貧弱な高齢者は、そのため働かざるを得ず、老後も仕事を続ける高齢者が増えているという。65歳以上の高齢者の雇用率は31.3%で、最近15年間で最も高い数値だった。

●高齢者の貧困率上昇、高い自殺率
 OECDは、年金制度と政策報告書『2015年度 一目でわかる年金(「Pension at Glance 2015」)』(2015/12/01)を発表し、韓国の65歳以上の老人貧困率(所得が世帯平均の50%に満たない割合)が加盟国中1位であると発表した。OECD加盟国の平均は約13%に留まったが、韓国は、4倍近い50%であった。この報告書は2013年9月から2015年9月までの間、34の加盟国の年金制度と政策を調査したものだ。同報告書によれば、韓国の高齢者(65歳以上)の相対的貧困率は年々上昇し、44.6%(2007年)、45.6%(2008年)、47%(2009年)、47.2%(2010年)、48.6%(2011年)、49.6%(2012年)と上昇し続け、年金額が少なく、思うように仕事ができない高齢者は貧困に直面しているという。
 また、高齢者の自殺率も深刻だ。高齢者の自殺率(人口10万人当たり)は、14.3人(1990年)、35.5人(2000年)、80.3人(2005年)、81.9人(2010年、日本17.9人)にまで急上昇した後、いったん減少傾向を示しているが、それでも昨年も55.5人と依然として高い水準にある。韓国の場合、経済的な理由による自殺者が多いと見られる。

 (筆者は元中国大学・日本語教員)


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