運動資料

事故と危険な核兵器につながる原子力協定は反対すべき

篠原 孝

 私は原発輸出については当然反対である。民主党の外務・防衛・経産合同部門会議が5回開かれ、トルコとアラブ首長国連邦との原子力協定の賛否について議論が行われた。私は皆勤し反対意見を述べた。ここにもう一回、原発輸出につながる原子力協定に反対する理由を整理しておきたい。

<恥ずべき原発事故被災国日本の原発輸出>

 第一に、日本が原発を輸出するということは、道徳、モラルに圧倒的に反するということである。

(1)国内で使わないもの・造れないものを外国に輸出するということはまともではない。日本で使わなくなり、禁止している劇薬を外国が欲しいからといってそれを平然と輸出するのと同じことである。もう一つ悪例を示せば、中国の農薬漬けの野菜は毒菜と呼ばれ中国農民も避けて食べない。それを日本人の健康など無視する介在企業が、日本に輸出して金儲けをしている。東芝、三菱重工、日立製作所といった世界に冠たる原発企業は、中国の農家や介在する貿易商社と同じレベルのいやしい商売人としかいえなくなる。

(2)事故を起こしてまだ未収束である。どのような問題があったかということも解明されていない。そして、日本では新たに建設しないけれども、外国ならばどうでもいいから輸出するというのも許されることではない。国内と外国を使い分ける二重基準である。少なくとも事故の原因を突き止め、二度と同じような事故を起こさない対策が講じられるまでは、国内で造ってはならない。外国に輸出などもっとしてはならないことだ。自国(日本)のことは自国で責任を持つから、多少危険でも新増設してもよいかもしれないが、危険なものを他国に売りつけるというのは、倫理上著しく問題がある。

(3)福島県民に対する礼儀に欠ける。16万人の福島県民に避難させ、ろくな賠償もせず、まだ不安におののかせている。それにもかかわらず、外国ならいいと平気で原発輸出するのは、県民感情を逆撫でしており、無神経極まりない。

(4)日本国民に対してまた事故を起こしてはならないので新増設しないと約束し、外国ならいいというのは、外国人と日本人の差別ではないか。日本国で自粛するのならば、諸外国に対しても自粛するというのは当然である。

<エコダンピング輸出に当たる原発輸出>

 貿易の世界では内外無差別というのが原則である。輸出を多くするため、国内価格よりも安くして輸出するのはダンピング輸出といって禁止されている。日本の原発輸出は、国内で売らずに(売れずに、造れずに)、外国のみを優遇して輸出するのであり、いわば超ダンピング輸出であり、当然許されるべきものではない。
 また、原発輸出は自国の環境基準が厳しすぎるので、それを避けるため環境基準の緩い発展途上国に工場を建ててそこで製造することと同じであり、典型的なエコダンピング輸出である。先進国として厳に慎まなければならないことである。

<核不拡散条約(NPT)の精神を重んじて核兵器につながる原発は輸出しない>

 日本は唯一の被爆国としてNPTの優等生であり、この延長で絶対原子爆弾の原材料を拡散する原発は輸出するべきでない。それを、原子力協定に賛成する者は、なんと驚いたことにNPTのために原子力協定が必要だという詭弁を弄する。NPTの精神をつきつめていけば日本は非核三原則を発展させ、「非核四原則」として一切プルトニウムができるような原発は諸外国に輸出しないようにすべきなのだ。インドが核兵器を造るかもしれないからダメで、トルコやアラブ首長国連邦なら核兵器を造る見込みが少ないという理屈は成り立たない。全世界に対して日本は唯一の被爆国として、そしてスリーマイル、チェルノブイリ、福島と唯三の原発事故被災国として、核兵器の不拡散に最大限の注意を払うべきである。

 今、核兵器を保有しない国で唯一プルトニウムの再処理も許されているが、最近複雑な事情から、プルトニウムをアメリカに返還することにした、私は、ゆくゆくは日本は再処理を放棄すべきだと考えている。そうすれば、イランや韓国が日本と同じにしてくれと要求できなくなるし、仮に原子力協定を結ぶにしても、トルコとのように再処理を認めるなどというトンデモナイ条文は入れなくてもすむようになる。日本は、率先垂範して「脱核」の途を進むべきである。

 次に、原発輸出容認論(原子力協定賛成論)に対して反論しておきたい。

<政策の一貫性→野党としての立ち位置のほうが重要>

 賛成の理由として第一にあげるのは、与党時代に賛成したのになぜ野党になったら反対するのか、政策の一貫性が必要だから賛成しないとならないことである。政策の一貫性を言うなら、民主党の2030年代に原発ゼロ」との一貫性、整合性こそ重視すべきである。自国でやめるものを他国については、知らん振りするのは恥ずべきことである。
 私は、この与党ボケした賛成理由には全く与する訳にはいかない。そもそも、3.11後に、事故の収束もままならない中、平然と輸出するのは、国際常識から大きく逸脱していた。だから、今それに気付いた維新、みんな、結いも含め民主党以外の全野党が原子力協定に反対を決めている。

<3.11後の原子力協定締結はそもそも間違っていた>

 日本の3.11の事故にびっくりして3か月後、脱原発を決めたのはドイツのメルケル首相である。それを当の日本の野田首相は、就任早々の国連演説で原発輸出を表明した。世界の原発関係者はびっくりしてのけぞっている。そして国会は12月にはヨルダン、ベトナム、ロシア、韓国との4原子力協定を承認している。私はその採決に棄権した。

 この次政権与党になった時も困るから、政策の一貫性を維持して賛成すべきなどと更に飛躍した意見もあるが、我々は今は野党なのであり、何よりも野党らしく振る舞うべきである。野田執行部は、次に控える社会保障と税の一体改革での造反を抑えるため厳しい処分が必要という弁明の下、私の(大したことはない)全役職を停止した。詳細は別紙「巧みな党内運営で反発を防ぐ維新の会」(14.3.31)に譲るが、みせしめ処分は全く功を奏さず、社会保障と税の一体改革の採決では強引な決め方に反発した多くの議員が造反・棄権し、党は分裂した。

<ロ中韓より日本がまし→日本は襟を質して脱原発を貫く>

 二番目に、日本が輸出しなくてもロシアや中国、韓国が質の悪い原発を輸出するから質の高い、技術の高い日本の原発を輸出した方がいい、アメリカも日中韓よりも自国のGEやウエスティングハウスと技術提携している日本企業のほうが信用できる、とバックアップしているというものである。

 日本は武器輸出三原則を守り、他の国がいくら紛争国に武器を輸出しようと輸出してこなかった。唯一の被爆国と原発事故被災国の二つの経験のある国・日本が、核についてどれだけ慎重になり禁欲的になろうと、世界は重く受け止めてくれるはずだ。核兵器廃絶のみならず、脱原発も日本が進んで行い、原発輸出も抑えていく姿を世界に示すべきである。さすれば、震災時の乱れない落ち着いた対応と同様に世界から絶賛されるに違いない。

<原子力ムラの既得権益を守る必要なし>

 国民には今の暮らしや経済よりも、将来世代にツケを回さないために少々我慢してほしいと、消費増税を押し付けておきながら、原発関連企業の儲けのために安全などお構いなしにどんどん輸出してよいというのは、どうしても腑に落ちない。原発関連産業界は「原子力ムラ」と称され、まさに利権・既得権益の巣窟である。それを「既得権益を打破する会」の面々が先頭に立って原発輸出に賛成をしているのは、まさに滑稽としか言いようがない。日立は鉄道、三菱重工は船、東芝はあらゆる電化製品と、世界に輸出すべき代替はいくらでもある。日本は武器でもなく、武器と大事故につながる原発でもなく、他の輸出に専念すればよい。究極の危険な武器につながる原発輸出など絶対にしてはならない。
 日本が国策として脱原発して再生可能エネルギーにシフトしていくという方針を打ち出したのであり、それを輸出だけでは脱原発せずというのはつじつまが合わない。日本の経済優先がここまできては、国際社会からも、故郷を追われている福島県民からも信頼は得られまい。

<アメリカは35年間新増設もなく輸出もせず>

 その点見習うべきは、アメリカである。アメリカは原発輸出という意味では脱原発を先行している。スリーマイル島の原発事故後35年間は一つの新増設もなく、輸出もしていない。自国の利益をがむしゃらに追及する強欲国アメリカが、原発技術があるにもかかわらず輸出もしなくなっているのだ。
 アメリカ国内では制度上は原発もいくらでも造れるようになっているが、現実には造られていない。なぜなら一方で核燃料廃棄物処理の見通しがたたなければ建設できず、その見通しがたたないからだ。そして外国でもその見通しがたたないので輸出の声はでてこない。内外無差別である。それを無責任な日本は国内の使用済み核燃料の行き先もままならないのに、輸出先国の使用済み核燃料の処理について誰が責任を持つのであろうか。日本はただ輸出して金儲けさえできればよく、その後のことには何の責任も持っていない。そして首相自ら原発のセールスマンにうつつを抜かしている。
 外国とは原子力協定を結び、核兵器への転換を止めるポーズをとりながら、実は経済的利益を優先して原発を輸出するのは、国内で原発が絶対安全と言い続けてきたのと同じ欺瞞である。

<発展途上国への原発輸出は過疎地への原発の押しつけと同じ>

 三番目に、安い電力で発展を願う相手国の事情もあるし、世界の原発需要に積極的に対応して行くべきだという考えである。野田首相がとってつけた答弁をし、今も同様の主張をする者がいる。
 日本に求められる国際貢献は、事故を起こすような危険な原発を輸出しないことなのだ。発展途上国が成長を望むのは当然である。ただ、それに乗じて原発を輸出するのは、日本が地方の過疎市町村に札束で顔を叩く形で、原発を押し付けてきたのと何ら変わるところがない。つまり、福島の不幸を発展途上国に輸出していることに他ならない。

<「死の商人」も「死の灰(放射能)の商人」にもなってはならず>

 四番目に、廃炉技術を維持するためにある程度原発が必要だが、国内では造れないから外国には輸出して原発技術を維持するというとんでもない議論がある。外国の犠牲において廃炉技術、原発技術を維持するなどという暴論を輸出先国にどうやって言えるのだろうか。前述のアメリカは国内の原発だけを関連技術を維持しているのだ。
 チェルノブイリと同じレベル7の大事故を起こしながら、平然と原発を輸出するのは、「死の商人」ならぬ「死の灰(放射能)の商人」になったと同じなのだ。

<なくなる民主党の居場所と出番>

 最後に政治的なことでいえば、綱領で日本国民の居場所と出番を考えるという民主党の、政党としての立ち位置が問題にされている。今まで、北沢俊美元防衛相の強いリーダーシップもあり、特定秘密保護法も反対し、集団的自衛権の一般的行使も容認しないということでまとまり、民主党らしさを出してきている。その結果、国民の眼にも民主党の野党としての立ち位置が明らかになり、暴走する自民党に唯一歯止めをかけられる政党としての認識が高まっている。そして、支持率もわずかに上昇しつつある。

 一方、自民党にすり寄るみんなも反対、自民党よりタカ派的行動をする維新も反対するなど全野党が原子力協定に反対の意向を明らかにしている中で、民主党だけが原発輸出につながる原子力協定に賛成したら、国民はびっくり仰天するはずである。そして、恐ろしいことに、民主党への失望が広まっていくに違いない。そして、居場所も出番もなくなっていく。

<たったひとりの家庭内野党よりも存在感が薄れる野党第一党民主党>

 今、原発政策についても維新と結いの政策協議が進み、統一会派に向かっている。民主党は維新やみんなを自民党の補完勢力として批判してきた。一方でもともと賛成の石原慎太郎共同代表でさえも、維新の両院議員総会の採決による政策決定に従い反対するという。そうなると、民主党は維新・結い・みんなを批判できなくなり、野党としての立ち位置を失っていく。
 安倍昭恵夫人が家庭内野党と言われ、原発輸出に絶対反対である。もし民主党が原子力協定に賛成し、原発輸出を進めることを容認などしたら、野党第一党としての存在意義は、たった一人の家庭内野党よりも低くなってしまうことを肝に銘じなければならない。

 (筆者は長野1区選出・衆議院議員)

(この原稿は篠原孝メールマガジン369号より加筆転載したものです)
 ※ e-mail :t-sino@dia.janis.or.jp 
   URL :http://www.shinohara21.com/blog/


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