仲井眞知事の辺野古埋立「承認」は違法である!

桜井 国俊

 「これはもはや、“脱法治国家”宣言としか受け止めようがない。民主主義はおろか、法治主義をも否定する暴挙と言うほかない」。4月30日付け琉球新報の社説冒頭部分はこう述べている。
 そのあと社説は以下のように続く。「沖縄防衛局は4月28日、米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設に向けた埋め立て工事手続で、名護市に申請した辺野古漁港の使用許可など6項目の回答期限を5月12日とした理由について「法的根拠はない」と市側に回答した。その上で期限は変わらないとし、市の回答がなければ「ないものとして処理する」と移設作業を強行する方針を示した。「『法令上必要な手続き』としながら、根拠のない期限設定は矛盾する。手前勝手な言い分」との名護市の指摘は正鵠を射ている」。
 昨年暮れの仲井眞知事の辺野古埋立「承認」を錦の御旗に、基地押しつけに向けた安倍政権の傍若無人な振る舞いが今や止まるところを知らない。しかし改めて確認しておこう。仲井眞知事の埋立「承認」は明らかに公有水面埋立法違反であるということを。

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埋立承認の条件 — 環境保全への十分な配慮
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 アセスとは到底認めがたいエセアセスではあったが、一昨年暮れの補正評価書の提出で環境アセス手続きが形式的に終了したことを踏まえ、沖縄防衛局は昨年3月、辺野古の海の埋立申請書を沖縄県知事に提出した。公有水面埋立法によれば許認可権者は県知事だからである。ところで同法第4条第1項は6つの条件を明示し、それら全てを満たす場合でなければ知事は埋立の免許を与えてはならないと規定している。今回の沖縄防衛局の辺野古埋立事業は以下に見るように第2の条件と第3の条件を満たしていない。にもかかわらず仲井眞知事が埋立「承認」したことは明らかに公有水面埋立法違反である。現在那覇地裁で辺野古埋立「承認」取り消し訴訟が行われている所以である。

 6つの条件の第2は、「其の埋立が環境保全に付き十分配慮したものであること」というものである。沖縄防衛局の埋立申請を受け沖縄県は埋立の是非の検討を進めてきたが、環境面から事業の妥当性を検討した環境生活部は、昨年11月29日付けの環境生活部長意見で「示された環境保全措置等では・・・・環境の保全についての懸念が払拭できない」としていた。ところがその懸念を払拭する事情の変更が一切なかったにもかかわらず、知事は12月27日に「申請は、現段階で取り得ると考えられる環境保全措置が講じられており、基準に適合している」として埋立を「承認」したのである。「承認」ありきの政治判断であったと言うしかない。

 知事は埋立「承認」に際し、「環境保全対策の留意事項」なる文書を添付し、その中の第2点として「環境監視委員会(仮)」の設置を事業者の沖縄防衛局に求めている。しかしこのような条件が何ら担保にならないことは、沖縄防衛局自らの手によって実証ずみである。辺野古環境アセスの評価書補正段階で沖縄防衛局は、「普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価に関する有識者研究会」なるものを組織したが、同研究会の委員を務めていた横浜国立大学松田裕之教授が昨年12月19日付け沖縄タイムスで「研究会は事業によって環境に影響が出るのは避けられないという見解を出したが国は『影響がない』というスタンスに変わった」と証言しているからである。「環境監視委員会(仮)」なるものを事業者が設置したとしても、それは結局事業者の「事業ありき」の姿勢を抑制しうるものとはならないことを松田証言は示しているのである。

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埋立承認の条件 − 法律に基づく計画との整合性
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 6つの条件の第3は、「埋立地の用途が土地利用又は環境保全に関する国又は地方公共団体の法律に基づく計画に反しないこと」というものである。沖縄県は、2010年に「沖縄21世紀ビジョン」を策定・公表しているが、目指すべき将来像の最初に「沖縄らしい自然と歴史、伝統、文化を大切にする島」が位置付けられ、それを受けて2012年に策定された「沖縄21世紀ビジョン基本計画」では、施策展開の一つとして沖縄の豊かな生物多様性の保全が示されている。こうした背景のもとに沖縄県は、「生物多様性おきなわ戦略」を策定しているが、これは生物多様性基本法という法律に基づく土地利用又は環境保全に関する地方公共団体の計画そのものである。

 では「生物多様性おきなわ戦略」は、沖縄を、そして普天間代替施設の建設が予定されている辺野古の海を含む沖縄島北部圏域をどのように位置付けているだろうか。まず目指すべき将来像であるが、沖縄全域については『自然を大切にする真心(ちむぐくる)と、いきものとのゆいまーるを育む島々』とされ、沖縄島北部圏域については『森と海のつながりを大切に、人々の生活と自然の営みが調和している地域』とされている。

 またおきなわ戦略の重点施策としては、沖縄全域については『世界自然遺産への登録推進とサンゴ礁生態系の保全・再生』が掲げられ、沖縄島北部圏域については『希少種の保護』が掲げられている。辺野古埋立事業が「生物多様性おきなわ戦略」で描かれた北部圏域の将来像や重点施策と整合しないこと、つまり埋立地の用途が法律に基づく計画に反していることは明らかである。そもそも辺野古の海は、沖縄県がランクI(原生の自然地域、傑出した自然景観等、多様な生物種を保存しており、厳正な保護を図る必要がある地域)の自然として指定しているものであり、指定者の県知事自らが指定の趣旨を踏みにじる事は許されない。

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辺野古埋立は沖縄の未来を奪う
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 公有水面埋立法を素直に読めば、以上に指摘したことから埋立不承認しかあり得ないのだが、振興予算の「大盤振る舞い」(精査すればそうではないことがすぐわかるのだが)に目がくらみ、知事は埋立を「承認」した。しかしこれは断じて認めるわけにはいかない。辺野古基地の建設は沖縄の永久基地化と米国が行う戦争への加担の永続化につながり、未来世代を戦争に巻き込むからである。そしてまた、沖縄の未来世代が素晴らしい自然と歴史・文化を土台に世界と交流し、観光業などを軸に誇りをもって暮らしていく可能性を奪うからである。

 今沖縄では、特に中高年層の間に軍隊と観光業は両立しないという認識が広まりつつある。米軍基地が存在する沖縄はテロリストの潜在的攻撃対象であり、観光客はそのようなリスクを回避する、これは9・11後の観光客激減で沖縄が学んだ貴重な教訓である。一方若年層の間では、ネットを主体とした中国の脅威を煽る言説が影響し、右傾化が否定しがたい。それは、4月27日に実施され自公推薦候補が勝利した沖縄市長選における世代別投票行動を分析した地元紙の報道からも明らかである。戦争になれば全国一就職難の沖縄の若者がまず血を流すことになるにもかかわらず、戦争に前のめりの安倍政権を沖縄の若者が支持する。この矛盾を我々は直視しなければならない。

 (筆者は沖縄大学名誉教授・前学長)


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