【自由へのひろば】

参院選挙のブロック毎結果分析と今後(3)

仲井 富


 016年7月12日の第24回参議院選挙では、32の1人区で11勝21敗、3年前の参院選では2勝29敗だったことを思えば、野党統一候補の大健闘が目立つ。これについては前回と前々回で分析を行った。目を複数区の全体状況に転じれば、北海道の3人区2勝、東京の6人区での野党3勝、愛知の4人区2勝など全体としては14勝をあげ自民の16勝に対して互角の戦いをした。ただ前回と同じく大阪では4人区ゼロ議席と惨敗だった。以下に勝利した北海道と惨敗した大阪の分析を中心に複数区の課題を考えてみたい。

◆北海道の3人区2勝だが比例区票では自公が圧倒していた

 今次参院選での複数区における最大の勝利は北海道の2人当選だった。そして最大の敗北は大阪の4人区における前回013年の参院選に次ぐゼロ議席である。北海道はこれまでは2人区で自民と民主がそれぞれ議席を分け合って来たが、今回は3人区となった。当初は3人区2名の候補者は無理だとの見方もあったが、農政通の鉢呂吉雄の出馬決断が功を奏した。結果は自民現職長谷川が1位で約65万票、2位民進徳永が約60万票、鉢呂約49万票で次点の自民新人柿木が約48万票と約1万票という僅差の勝利だった。
 しかも自民の候補者2人の得票は計約113万票で民進党2人の得票計約109万票より4万票多かった。比例区票で比較しても、自民の2候補を支持した自公の比例区票は自民が約83万票、公明が約34万票で合計約117万票。民進の比例区票77万票をはるかに上回る。しかし3年前の参院選で惨敗した当時、民主北海道の比例区票は約41万票であったことを思えば約2倍になっていることに注目したい。しかしそれを考慮しても自公の推す候補者が圧倒的に勝利するはずだが、選挙では約1万票の差で自民敗北となった。鉢呂当選を勝ち取った決め手はどこにあったのか。分析すると複数の要因が重なって1万票差の鉢呂当選につながったことがわかる。

 第一の要因は参院選挙の3月前の北海道5区補欠選挙だった。敗れたとはいえ自公新党大地の推す自民党候補者は、町田後継の弔い合戦だったにもかかわらず大接戦となった。「北海道5区自民勝利 京都3区は民進」の結果だったが、産経新聞などは一面の見出しで「首相、無党派つかめず危機感」、2面では「無党派票73%野党へ」と言う大見出しで、記事の内容は「北海道5区では無党派の73%、京都3区では72.6%が野党候補に投票した」と書いた。無党派層の73%が無所属統一候補の池田に流れた。自民党の町村後継の和田が勝ったのは千歳市と恵庭市の自衛隊票と人口の少ない当別町・新篠津村の4地区。都市部の4市では池田が勝った。また自民党北海道連会長の伊達忠一参院幹事長は4月26日の記者会見で、「民・共というより共・民、共産党がしっかりやっていた。共産党が集めた集会の方が圧倒的に人が多かった。意気込みが違う」と述べた。

 第二の要因は朝日新聞の出口調査に現れているが、独自候補を立てた共産党支持者の約17%、約4万8千票が主として札幌市を中心に民進候補に流れたと分析されている。独自候補を推していながら、共産党支持者が民進候補への投票行動を取ったのは、北海道5区における野党統一候補の善戦を背景としている。共産党支持者といえども、それぞれの政治状況において投票行動は変化する。例えば、014年の滋賀県知事選挙では、比例区票では圧倒する自公維新支持の候補者を民主推薦の大月大造が僅差で勝利した。おりから国会での秘密保護法案の採決をめぐる国民世論の危惧を背景とした選挙でもあった。ここでは独自候補を立てた共産党だったが、実際の投票行動では共産支持者の20%が民主推薦候補に投票している、というようなことがなければ大月の当選はあり得なかった。

 第三の要因は社民、生活、国民の怒りなど小政党の支持者の存在だ。社民の比例区票は約4万2千票で(1.75%)、生活の党約4万4千票(1.75%)国民の怒り約2万2千票(0.88%)だ。保守リベラルの本来ならば自民支持者が安倍政権批判に結集したのが「国民怒りの声」だった。鉢呂の8,644票という僅差の勝利の要因は、小政党を含めた諸々の「違憲の安保法破棄と農業破壊のTPP拒否」という明確な争点が生んだ勝利だった。このうちどれ一つが欠けても3名区2名の勝利はなかった。複数区で野党共闘という形式は取れなくとも首長選挙や小選挙区選挙など1名区の選挙で小政党を含めてあらゆる非自民勢力を結集することが唯一勝利の展望を切り開くという教訓であろう。

◆民進比例区票の増大と、維新支持者の野党統一候補への投票行動

 013年の参院選挙結果から見ると北海道の比例区票は前回013年の約41万票から今回は約77万票(30.62%)と、自民の約83万票(32.82%)と比肩するところまで来た。以下の朝日新聞出口調査によると無党派層の動きも、参院1人区傾向を反映している。民進の2候補が無党派層36%の投票を得たのに対して、自民の2候補は26%にとどまった。さらに注目すべきは、維新支持者の42%が民進の2候補に投票し、自民には26%が投票していることだ。公明党支持者も17%が民進の候補者に投票している。1人区で顕著に見られた特徴だが、比例区票では圧倒的に自公維新がリードしているにも関わらず、選挙区とくに1人区で維新の支持者の大半が野党統一候補に投票している。この傾向が競り合った複数区の北海道でも出ていることに注目したい。
 維新支持者は橋下の「身を切る改革」路線は支持するが、平和、安全保障の面では安倍政権べったりは拒否する投票行動を取る。争点が明確な対決型選挙では、滋賀県知事選挙や沖縄の各種選挙に見られるように野党統一候補に投票する傾向が今回の参院選挙ではっきりした。これが維新の安倍政権の準与党化にもかかわらず「憲法九条改正」には全くふれないことにつながっている。そして安倍首相も、それを心得ていて今国会に入るや、憲法改正を封印した答弁を繰り返している。九条改正に触れることで自民支持者や維新、公明支持者の投票行動が変化することを察知したからだ。(下図 朝日新聞出口調査 016・7・12)

画像の説明

◆大阪の4人区民進ゼロ議席と比例区票全国最低9.3%

 前々回の参院選のブロック毎選挙結果の分析で、本稿において三分の一確保失敗の元凶は大阪及び近畿ブロックにおける惨敗にありと指摘した。以下それを具体的に探ってみたい。まず選挙結果からみると近畿ブロック全体で京都の1議席のみで1勝11敗。近畿ブロックの民進党は惨憺たる敗北である。前回013年も橋下維新と自民、共産の後塵を拝して、当選者はゼロだった。今回も4名区の大阪で次点にも入れず現職の尾立が敗北しゼロ議席となった。当選したのは京都選挙区の福山哲郎の1議席のみ。共産は前回京都、大阪と2議席を確保したがゼロ議席に終わった。しかも滋賀、大阪、兵庫、奈良で民進の現役4名が落選するなど野党が3分の1議席を確保できなかった最大の戦犯は近畿ブロックわけても大阪4名区の民進ゼロ議席といえる。

 大阪の選挙結果を見ると4人区で自民の松川約76万、大阪維新の朝田約73万、公明の石川約68万、おおさか維新高木約67万の得票で当選。次点に共産の高木が約45万と続き、民進の現職押立源幸は約35万票と勝負にならない6位だった。比例区得票でも民主から民進に名前は変ったが、前回約27万票の比例区票は約34万票と多少増加したが得票率は9.3%で全国最低となった。前回の最低比例区得票率は沖縄だったが、今回は大阪が最低得票率、しかも得票率10%を割ったのは大阪のみで、選挙区得票率も9.32%と変わらず。全国で無党派層の50%以上が野党統一候補に投票したという流れとはまったく無縁の状況だ。東の東京、西の大阪と戦後革新の担い手だった大阪の凋落ぶりは何に起因するのか探らなければならない。

◆おおさか維新の近畿ブロックへの定着と比例区票増大

 大阪選挙区での当選者は上位から見ると、自民松川が20.41%、おおさか維新の朝田が19.50%、公明の石川18.21%、おおさか維新の石川17.95%と続く。次点の共産渡部は12.81%だが、前回の3年前の共産党が当選を果たした得票率12.18%と変わらない。敗北の原因は大阪維新の躍進にある。前回選挙でおおさか維新の得票約106万、得票率28.8%が今回の選挙区選挙では、得票数約140万票、得票率37.45%と飛躍的に増大した。
 維新の今回の参院選比例区票は全国的には、013年の約636万票(11.9%)から約515万票(9.20%)と低下している。しかし大阪及び近畿ブロックにおいては増加しており、近畿に限っては確固たる支持基盤を擁するに至った。近畿ブロック選挙区においては自民が大阪1、滋賀1、京都1、奈良1、和歌山1、兵庫1と6議席。公明が大阪1、兵庫1と2議席、維新が大阪2、兵庫1と3議席。自公に加え準与党の維新で合計11議席。野党側は京都民進の1議席のみという結果に終った。近畿ブロック全体の比例区得票を見ると以下のようになる。維新の得票は比例区でも約214万票と自民に次ぐ得票を得ていることがわかる。( )内は大阪選挙区の比例区得票。

 自民 約254万(約82万)
 維新 約214万(約129万)
 公明 約132万(約61万)
 民進 約125万(約35万)
 共産 約105万(約42万)

 以上の比例区票で見れば自公維新の選挙協力が実現すれば、近畿ブロックにおける勝利の可能性は皆無に近い。
 共産党との統一候補はあり得ない、民進党を勝手に推薦するのはよろしいというような連合や野田執行部の傲慢な姿勢では、野党諸政党と市民運動をまとめての統一候補の可能性はあり得ない。10月30日投票の東京、福岡における民進候補の惨敗が証明している。問題は共産党との共闘ではない。共産党を含めたあらゆる小政党、市民団体などによる参議院選挙1人区における勝利の教訓に学ぶかどうかだ。

 下図は朝日新聞016年参院選における大阪の出口調査結果である(朝日新聞016・7・12)。北海道では無党派層の36%が民進の2人の候補者に投票したが、大阪では民進には13%しか投票していない。大阪では無党派層の投票行動は分散しているが、維新の両候補に28%、共産に16%、自民に16%、公明に9%となっている。維新の躍進は無党派層の支持トップにも現れている。

画像の説明

◆長年の自公民社民連合という野合が衰退滅亡へ

 大阪を中心とした民新党の回復不可能に見える衰退の原因は、1980年代から続く自社公連合の首長選挙にある。これが自民党の地方における影響力の低下を救った。それが自社公連合から自公民連合社民という共産党を除く既成勢力連合、いわば古い利権構造を守る政治連合へと変質した。既成政党と連合の旧いパターンに挑戦状を突きつけたのが、橋下大阪市長であり、河村名古屋市長だった。民主党政権以降も民主〜民進は相も変わらず首長選挙などで自民党と野合する選挙を繰り返している。09年の菅民主党政権の消費税抱き着き選挙での敗北以来、国政選挙4連敗のみならず、010年、014年と地方選挙も連敗に次ぐ連敗によって足腰が全く劣化した。

 さらに深刻なのは連合組合員の連合・民進離れである。連合の参院選のまとめで「2013年・各地方連合会の組合員登録数と連合組織内候補者9名の都道府県ごとの得票数について」という項目がある。これによると、連合の013年の全国の組合員総数は約574万名。その中で各都道府県の連合組合員の投票率は全国平均で27.91%となっている。民主党が地方区で当選したのは北海道をはじめすべて複数区のみだが、東京5名区、大阪の4名区はゼロに終わった。ちなみに複数区で当選した道府県の組合員投票率は、20%台から40%台までで、ほぼ平均投票率と同じか、あるいはそれを上回っている。だが議席ゼロの大阪では39万人の連合組合員のうち投票率は16.89%という低投票率だった。共産党と統一選挙をやれば本来の民主支持票が逃げるなどと言っているが、とんでもない。とっくの昔に連合組合員からさえ、大阪の連合と民主は愛想をつかされているのだ。

 大阪では橋下改革に反対する、自公民社民連合+共産という既成政治勢力連合が見事に橋下改革に敗れ、結果としては安倍政権の有力な支持政党を育て上げることに貢献した。共産党は辛くも生き残ったが、当時の大阪民主党は、昨年の地方選挙では政令都市大阪で府会議員1人、市議会では当選者ゼロという根無し草の政党となった。中央では自民と対決するかの如く見せているが、地方では自社公民社民連合という既得権益連合に依拠してきた。その結果、生き延びたのは自民党であり、消滅の道を歩んでいるのは野党第一党の民進党なのである。東京選挙区に次ぐ大票田の大阪・近畿ブロックの惨状を直視せよといいたい。

<付記> 10月16日投票の新潟県知事選挙では、民進、連合が自公の森候補を支持したにも関わらず、共産、社民、自由の小政党と市民運動の連合が巨象を63,411票差で倒した。争点が明確であれば自公連合は1人区の選挙に弱いことが今回も証明された。新潟県知事選挙の投票率は53.65%(前回43.95%)だった。同日の東京都昭島市長選は自民公推薦の白井が20,271票、共産推薦の小玉が8,648票で投票率は32.14%と過去最低だった。日本の政治をダメにしているのは、自公民連合という最悪の既成勢力連合である。有権者の政治的関心を高め無党派層の政治参加なしに安倍政権打倒はあり得ない。

 (世論構造研究会代表)


最新号トップ掲載号トップ直前のページへ戻るページのトップバックナンバー執筆者一覧