【オルタの視点】

<インタビュー>

国会憲法審査会にこう臨む

憲法審査会会長代理  鈴木 克昌
インタビュアー    北岡 和義 (2016年9月12日)


【北岡和義】(以下、北岡) 現在の政治状況は、憲法を改正すると言っている政党が、議席の3分の2を超えており、憲法の改正の発議ができるという状況です。鈴木先生も新聞のインタビューで、国会における憲法審査会の動きが再開されるだろうとお話しでした。具体的にどんなかたちで、国会の中で憲法論議が始まるのか、そこからお伺いしたいと思います。

【鈴木克昌】(以下、鈴木) 先の参議院選挙で野党は、与党に3分の2を取らせないというキャッチフレーズで戦ったわけです。その主たる目的は、3分の2というのは、憲法改正の勢力に可能性を持たせることになるので、それだけは阻止したいということだったんですが、結果的には、国民の審判・判断の中で、3分の2以上の改憲勢力が当選した。これは事実ですね。

 9月26日から開かれる臨時国会の中では、4つの大きな問題があると考えます。補正予算、先送りした消費税の増税、TPP、そして憲法です。私はこの憲法について、衆議院の憲法審査会の会長代理で、これは野党の筆頭が会長代理になるということですが、ことさら憲法について、いろいろと考えていかなくてはならないという立場です。

 問題は何点かあるのですが、まずはどういうかたちで憲法審査会に入っていくのか、ということです。入り口論ですね。当然、出口論もありますが、入り口論として、私の考えは3点に絞られます。

 ひとつはやはり、今から16年前に、中山太郎先生が憲法というものを俎上に挙げて、国会での審議ができるようになった。これはまさに中山先生の功績だと思うのです。それまでは、国会の中で憲法と言えば、それだけで議論百出という状況でした。少なくとも憲法について、冷静に考える場をつくろうという中山先生の努力の中、現在の憲法審査会ができているわけです。ただ、民進党も新しい議員の層が増え出し、もちろん(自民党にも)安倍チルドレンという議員1期生2期生という方もたくさんいるわけで、そうした方たちはこの経緯をあまりご存知ないのです。従って、もう一度、中山先生に本当にどういう経緯で、憲法審査会が設置されて、そしてまた、16年間、どういうかたちで審議が進められてきたか、という歴史を学ぶということがひとつあると考えています。

 2つめに、安倍総理がいろいろなところで、憲法についておっしゃっている。9条改正ぐらいまで踏み込んでおっしゃっているのですが、それは例えば、予算委員会とか記者会見とかいった場であって、肝心かなめの憲法審査会での発言というのが全くないのです。私は先の安保法制の時でも、特別委員会をつくるのではなくて、憲法審査会でやるべきだとずっと主張してきたわけですが、結果的には憲法審査会は外して、特別委員会で議論をした。私はそこに対しては不満がありまして、まったく総理自身がわかってないのではないか、と言いたいぐらいです。従って、総理が自ら憲法審査会に出てきて、ご自身の憲法観について、当然言うべきだと思います。それは総理だけではなくて、各党代表が、自分たちの党の憲法観というものを言うべきではないかと。これが2つめの条件です。

 3つめは、憲法審査会の歴史と経緯の中で、少数意見というものを非常に大事にしてきたんです。自民党だろうと、どんな小さな政党だろうと、与えられた時間はまったくいっしょです。5分なら全員5分、10分なら全員10分と。この進め方というのは、今の国会の中では、本当に特異なものです。少数意見を大切にするという姿勢は、国会の中でもっとも大事なことだと思うんですが、それをまさに憲法審査会がやってきている。少数意見を徹底的に大事にしている。

 この3つの条件が整ったときに初めて、憲法審査会の再開、入り口に立てると私は考えています。そしてこのことを、(憲法審査会会長の)保岡興治さんにも内々に申し上げました。「この3つは最低でもクリアしないと、本当の意味での憲法の議論に入っていけないのではないですか」と申し上げました。これが現在の状況です。

【北岡】 それは保岡会長もご理解なさっていると言うことでしょうか。

【鈴木】 ご賛同いただいたと感じています。

【北岡】 今のお話は私もまったく同感で、そういう形で再開されると非常にいいと思います。ひとつだけ確認したいのですが、安倍首相が少なくとも総理大臣として、公式に国会で憲法に関する見解を述べたことはないのですか。

【鈴木】 国会ではあります。例えば、稲田政調会長が「現実に合わない9条2項をこのままにしておくというのは、立憲主義に反するのではないか」と質問しましたところ、「憲法学者の7割が、9条からみると、自衛隊の存在は違憲だと判断している。この状況をなくすべきだ」と答弁しているわけです。だから、まったく憲法について、公式な場で発言をしていないということではないと思うのですが、憲法審査会ではまったくありません。

【北岡】 国会の中で総理大臣が、少なくとも今の憲法を変えるべきだ、と言っている公式な発言はあるのですか。

【鈴木】 そういう言い方はされていないです。

【北岡】 街頭演説とかインタビューとかではなくて、国会の場で、いまの憲法について、総理が改正しなければならない、という発言をなさっているかがわからないのですが。

【鈴木】 それは総理が非常に上手な言い回しをしているのです。例えば、安保法案の時でも、「98%の学者が違憲または違憲の可能性があると言っている」と言えば、「憲法学者の7割が、9条からすれば、自衛隊の存在はおかしいと言っているではないか」と、同じ憲法学者の議論でも、上手にすり替えをされるわけです。また、まさに核心に触れたような、「自分は憲法はこうあるべきだと思っている」ということや、あるいは、もっとわかりやすいのは、「憲法のどこを変えるべきか」という点についても、それは「国会、国民の議論を待つべき」だ、と逃げるわけです。これは私に言わせれば無責任です。そうかと思えば、「自民党は憲法草案を出していますよ、他党は出していないじゃないですか」という言い方をされる。まことに憲法に関しては、十分に計算をされての上だと思うんですけれども、本当の肝心かなめの自分の憲法観を出さずに、「憲法学者はこう言っている」「国民の議論を待つべきだ」「自民党はこう言っている」と、本当にうまい言い回しをされている。

【北岡】 ご自身の意見は明確にされていないと。

【鈴木】 明確には出していないと私は思っています。

【北岡】 中山太郎先生が国会の中に憲法調査会を設置された。それから16年、時間がたっています。この間の審査会での議論というのはあったのでしょうか。なかったのでしょうか。

【鈴木】 これまでは、どこを変えると言うよりは、いまある憲法を1章ずつ検証しましょう、憲法を勉強しましょう、というようなことに主力をおいてきたのです。それは議員の中にも、改憲論から、絶対に変えてはならないという極端な意見もあるわけですから、やはり審査会をうまく運営していく上において、いきなり改憲論に入ることはできなかったわけです。

 ただ、私は最大の問題であった、国民投票法制がなかったという状況、これは、どんな憲法改正をしようとしても、国民投票法制が制定されていないと、ぜったい改正はできなかったという状況で、これが続いていたわけですが、国民投票法制を通したということは、非常に大きな最大の問題点をひとつ、クリアしたということだと理解しています。

【北岡】 この秋の国会では、入り口論を含めて、憲法改正の是か非かという議論になるのでしょうか。それとも、憲法改正するための、入り口論になってしまうのか。

【鈴木】 まさに総理が憲法審査会に対して、どういう考えを持つのか。総理というのはやはり自民党の総裁ですから、当然それで自民党は動くでしょうし、連立を組んでいる公明党も、影響を受けるでしょう。端的に申し上げれば、総理がどういう考えを、この憲法審査会でおっしゃるかによって、方向性というのはかなり変わってくる。「国会の議論、国民の議論に待ちます」なんて仮におっしゃれば、これはまた、従来の憲法審査会のかたち、流れになっていくでしょうし、そうではない、あくまで、自民党の改憲案をひとつのたたき台として、これが是か非かという議論に入っていくのか、そういうことになれば、それはおのずとそういう方向性になっていくと私は思っています。

【北岡】 再開に関しての3条件、これでいこうと合意された場合、やっぱりそこで、「総理の考えはどうなのですか」と聞くわけですね。ただ、あの方はいろんな発言をされているけれども、まっすぐ応えてくれない、と。別のことではぐらかしたり、すり替えるような議論は、もう許されないですよね。

【鈴木】 そうです。そういうことであれば、このままずっと同じようなことが続いていくことになります。だとすれば、私はもう憲法審査会以外の場で、憲法のことをあまり踏み込んでほしくない。言う資格がないとは言いませんけれども、政治家が何を言おうと勝手ですけれども、それは筋がおかしいと申し上げていこうと思います。

【北岡】 21世紀に入ってから、巷の憲法論議としては、例えば、改正すべきという意見と、護憲という意見だけではなく、加憲とか創憲とか、いろんな議論があります。国民としては、それはやはり国会でやってもらわないと困る、国民に返されても困るのです。だから、国会で、例えば自民党どうなのか、公明党はどうなのか、民進党はどうなのかと。

【鈴木】 私はそう思って入り口論にこだわっているのです。

【北岡】 新聞のインタビューの反響はどうですか。

【鈴木】 そんなにないです。

【北岡】 これはけしからんという人はいませんか。

【鈴木】 それはないですが、やはり憲法よりも経済の方が、国民のみなさんの関心があるのではないでしょうか。

【北岡】 ただ、安倍さんとしては、やはりやると言っているわけです。そうすると中身に入っていかなきゃ困る、という議論にもなります。そこのところは党内情勢、つまり、各党の人たち、例えば、公明党の山口さんは広く意見を聞くんだと、非常に当たり前のことをおっしゃっているんですが、政治的にはどうでしょうか。政治日程には上ってくるのでしょうか。あるいは、政治日程にのせようとしているのでしょうか。

【鈴木】 私はやはり、きちっと憲法審査会で、憲法論議の核心に入っていくべきだと思っています。

【北岡】 例えば、岡田代表は、安倍政権下では憲法改正は絶対反対だと言っていますが、これもひとつ政治的には意味がありますね。

【鈴木】 後にその発言は訂正されています。私はそのように理解しています。「やはりしかるべき場で、きちっと議論が進むことにやぶさかではない」と訂正されたと、私は党内でそうした見解をとらせていただいています。

【北岡】 具体的な手続きとしては、国会が始まると憲法審査会が開かれる、そこで先ほどの3つの条件を議論してもらうということになるのでしょうか。

【鈴木】 まずはおそらく国会が召集をされて、憲法審査会の幹事会が開かれ、その幹事会の場で、与党の方から、どのように進めていこうかという話が出ると思うのです。そうしたら私は、もちろん他の野党との調整もありますが、先ほどの3条件を申し上げて、それに対して、与党側がどのように回答を出してくるか、そこから入っていくということです。まずは何はともあれ、幹事会が招集されるということだと思います。

【北岡】 そうすると、秋から始まって、あるいは今回の臨時国会で憲法改正論議が始まる、という理解でいいのでしょうか。

【鈴木】 そうです。国民のみなさんもそう思われていると思います。まったく憲法審査会が開かれずに、議論にも入らずに、また今年が終わってしまったら、もういったい全体、安倍総理は何を考えているんだ、という話に、逆になると思うのです。

【北岡】 (憲法の改正を党是とする)自民党が結党されたのが1955年です。それから半世紀以上が経過しているわけです。しかし実際には、議論はあったけれども、国会では具体的な動きがなかった。今回はまさに、国会における動きの中で、非常に大きなステップではないかと思いますが。

【鈴木】 それはまさに先の参議院選挙で3分の2をとらせないということが、ひとつの選挙のテーマ、大きな流れだったわけですが、その3分の2をとらせないという影には、憲法論議があったということです。なぜそうなったかというと、昨年の安保法制の強行採決が背景にあります。このままでいけば、当然憲法改正に入ってくるだろうと。だから3分の2をとらせないという訴えを野党はしたわけです、そこから言えば、まったく臨時国会で憲法審査会が開かれなかったということになれば、あるいは総理が、自身の考えについて発言をされない、ということになれば、これはやっぱり国民的にも許されないのではないかと思います。

【北岡】 もし鈴木先生ご提案の3つの条件、特に各党の党首が、党の憲法観を述べるというと、民進党はどうなるのでしょうか。ただし現在、党首選の選挙中ですが、どなたが党首になろうとも、「わが憲法観はかくあるべし」ということを本当に言えるのだろうか、と思うのですが。

【鈴木】 3人の候補の中で、どなたになるかわかりませんけれども、私も頭の中に3通りの絵を描いているわけです。あの人がなればこういう展開になるだろう、この人がなればこの展開になるだろうと。しかし党としては、やはりひとつですから、どなたが代表になろうと、議論をすることはやぶさかではない、それからいわゆる加憲であること、それから9条については絶対に改正しない、というこの3点は、私はどなたが代表になろうと、基本的には変わらないと思っています。

【北岡】 ただ自民党としては、明らかにそこに手を付けたいわけです。そうすると、憲法論議というのは、何かエンドレスというか、結論がつかないのではないかと。おっしゃるように少数意見を大事にしようというのは、たしかにその通りなのですが、しかし少数意見は、絶対改正を認めないという立場もあります。また、変えようという人は9条を変えたいと。一方で、押し付けられた憲法だから、自主憲法を作るんだ、という人もいます。

 ですからかなりの長い道のりになるのではないかと思いますが、それでもやっぱり中身に入っていく議論が必要ではないか。憲法をどう変えていくのか。どのようなお考えを持っていらっしゃいますか。

【鈴木】 個人的には持っています。しかし、党を代表して幹事として出ていますし、野党をまとめていかなくてはならないという立場もありますので、なるべく個人的な見解を出さないようにしていますが、私はいわゆる加憲という立場に立っています。

 加憲の最大のポイントは、地方自治です。自分の今までの政治経験の中では、やはり地方自治をずっとやってきていますが、今の憲法では国と地方について、第8章のたった4条しか憲法に書いていないのです。これはやはりかたちとしておかしいと。地方自治について、私は大いに議論をしたいと思っています。

 それから進め方として、まさに同じことをエンドレスに続けてはならない。国民の期待から考えても、エンドレスではいけない。そういう意味では、お試し改憲とか、反対の可能性のないところからやっていこうという意見もありますが、私はやはりそれはそれで真剣に考えてもよいのではないかと思っています。ただし、何をやるかということはまた別の問題です。国民のための憲法ですから、多くの国民が「やっぱりそうだね」と思えるようなところについては、私は最初、そこから入っていくことも、当然、手法としてはあるだろうと思います。個人的な見解ですが、そう思っています。

 ただ、野党間の幹事会を開けば、やはりそこまで言ってもらったら困るよ、ということもあるでしょうから、そこは十分配慮していかないといけないと思っています。やっぱりうまく審査会を回していかないといけないわけですから。個人的には加憲の立場ですし、とりわけ地方自治については、やはり取り組んでいくべきだと思っています。

【北岡】 最後になりますが、これからの5年、10年、15年と、この憲法問題というものがひとつの方向に向かうのか、よくわからないのですが、先生はどうお考えですか。

【鈴木】 私はやっていかなくてはならないと考えています。それは政治の責任だと思っていますね。今やらないともっとできなくなると思います。

【北岡】 その点では例えば、経済の問題や財政の問題、社会保障の問題やTPPという問題とは、憲法の問題というのは基本的には違うと思います。もっと重要というか、国家の基本的な形ですから、そこはぜひ具体的に、一歩も二歩も踏み出してほしいなという気持ちを私はもっています。

【鈴木】 政治的な情勢に影響を受けない冷静な憲法論議、憲法議論というものをしていかないといけない。ややもすればここ1年以上、憲法審査会は開かれなかったわけです、安保法制に振り回されて。むしろ憲法審査会という存在を隠しておいて、特別委員会でやってしまうという、ああいう手法は私は許されないと思っています。

【北岡】 それは安倍政権が数をもとにして、一番大事なところを、そういうかたちでごまかして、隠して議論を進めてきた。これは日本の議会制にとっても不幸ではないかと。政治の中での議論ということをやっていくべきです。

【鈴木】 そう思います。いずれにしても、本当に憲法については、使い分けをしてすむような問題ではない。もう少し真正面から総理も取り組んでもらいたいし、われわれもそれを真正面に受けて、国会での議論をしていく、ということだと思います。

【北岡】 この3条件ですけれど、進めていけますか。

【鈴木】 それは私の使命ですから、これがのまれなければやっている必要はありません。もっとも、代表が替わると首がすげ替えられるかもしれませんが、それは別としても、私はこれは当然のことだと思っていますし、本当に突きつけていきたいな思います。

<プロフィール>
鈴木克昌: 衆議院議員(5期)・民進党副幹事長・憲法審査会幹事・財務金融委員。愛知県議会議員(4期)・蒲郡市長(2期)・総務副大臣。
北岡和義: ジャーナリスト・元読売新聞記者・元日本大学教授。

※この記事は2016/09/12に衆議院会館でメールマガジンオルタ編集部が収録したもので文責は編集部にあります。担当:藤田裕喜。


最新号トップ掲載号トップ直前のページへ戻るページのトップバックナンバー執筆者一覧