【沖縄の地鳴り】

宜野湾市長選挙結果と出口調査

世論構造研究会


 米軍普天間飛行場を抱える沖縄県宜野湾市の市長選挙(1月17日告示、24日投開票)は、安倍晋三政権が推す現職で2期目の再選を目指した佐喜真淳候補(51)=無所属、自民、公明推薦=が2万7668票を獲得し、翁長雄志知事が支援する新人で元沖縄県幹部職員の志村恵一郎候補(63)=県政与党の共産や社民のほか、一部の保守系地方議員なども支援(2万1811票)を下して、2回目の当選を果たした。投票率は68.72%(前回比4.82%アップ)だった。前回(63.90%)を上回った。
 前回2012年の市長選挙は佐喜真氏と伊波元市長の得票差はわずか900票余、今回、オール沖縄の志村氏の得票とほとんど変わらない。前回投票率が4.82%アップした分を佐喜真氏が上乗せした計算になる。(前回は佐喜眞淳 47 無所属 新 22,612票 50.60% 自由民主党、公明党、新党改革 推薦/伊波洋一 60 無所属 元 21,712票 49.40% 日本共産党、社会民主党、沖縄社会大衆党 推薦)。公明党は前回も佐喜真支持であり、今回初めて自民候補を支持したわけではない。

◆辺野古移設反対派24%が現職に投票 朝日新聞出口調査

 朝日新聞の出口調査では、以下のように述べている。
 —宜野湾市長選挙では、現職の佐喜真淳氏(51)が同市にある米軍普天間飛行場の同県名護市辺野古への移設に反対する人や野党支持層の一部の票も取り込み、再選を決めた。朝日新聞社は24日、市内16投票所で出口調査を実施し、1263人から有効回答を得た。

 佐喜真氏は自民支持層の88%を固め、公明支持層も8割強が佐喜真氏に投票。新顔の志村恵一郎氏(63)は社民支持層と共産支持層の9割以上から得票した。民主支持層は72%が志村氏だったが、佐喜真氏にも28%が回った。無党派層は回答者の4割以上を占め、佐喜真氏に43%、志村氏に57%が投票した。普天間飛行場の辺野古への移設に賛成が34%、反対が57%。佐喜真氏は賛成と答えた人の93%を固めた。一方、反対と答えた人は必ずしも一本化したとはいえず、76%が志村氏、24%が佐喜真氏に投票した。
 志村氏は高齢層に強く、60代の56%、70歳以上の59%から得票。佐喜真氏は20〜40代でリードし、特に30代では67%から得票した。50代では五分五分だった。

 投票する際に最も重視したことは「普天間飛行場の移設問題」(48%)、「経歴や実績」(19%)、「経済や福祉政策」(19%)の順で、普天間問題が半数を占めた。普天間問題と答えた人の70%が志村氏に、30%が佐喜真氏に投票。佐喜真氏は経歴・実績と答えた人の90%、経済・福祉政策と答えた人の71%の票を集めた。
 70歳以上では60%が普天間問題を最も重視し、経済・福祉政策は13%にとどまった。20代は普天間問題(35%)と経済・福祉政策(30%)が拮抗(きっこう)し、30代も同様だった。若年層は普天間問題にこだわらない投票行動を示したようだ。本社が期日前投票の投票者を対象に別途実施した出口調査でも、似たような傾向を示している。(峰久和哲)—

◆辺野古移設反対は多数だが危険性除去優先の民意 各社出口調査

・朝日出口調査:「普天間飛行場の辺野古への移設に反対が57%」賛成が34%」
・東京新聞(共同通信出口調査):「56%『辺野古反対』」「『政府支持せず』過半数」
・読売新聞出口調査:「普天間飛行場の辺野古移設について、〜回答者全体では、『反対』と『どちらかといえば反対』」が、合せて55%に上った」
・毎日新聞出口調査:「米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設に『反対』との回答は56%で、『賛成』の33%を上回った」
・NHK出口調査:「辺野古への移設によって危険性を除去することに賛成が57%、反対も43%を占めた。

◆毎日新聞の「記者の目 」沖縄・宜野湾市長選

 普天間の行方=佐藤敬一(那覇支局)は毎日新聞2016年2月9日東京朝刊で「民意変化と見誤るな」と要旨以下のように述べている。
 政府は沖縄での移設反対の民意は崩れたとして、移設を推進する構えだ。しかし、今回の選挙で本当に民意が崩れたといえるのか。市民は普天間飛行場の早期返還を願いながら、「普天間を同じ県内に押し付けていいのか」と葛藤しながら投票した。この複雑な感情を理解せず、政府が強引に辺野古移設を進めるならば、沖縄との溝は深まるばかりだ。
 市の面積の4分の1を占める普天間飛行場は市のど真ん中に位置する。周囲に住宅や学校、病院などが密集して「世界一危険な飛行場」と呼ばれ、2004年には隣接する沖縄国際大に米軍ヘリが墜落した。12年からは安全性が疑問視されたオスプレイが配備され、市民は文字通り眠れない日々を過ごしている。

◆県内移設でなく、早期返還の支持

 なぜ選挙結果が大差となったのか。毎日新聞が投票日に実施した出口調査では、辺野古移設に「反対」とした有権者は56%に上った。普通であれば志村氏が有利なはずだが、このうち佐喜真氏に投票した人が23%いた。辺野古移設を推進する政府の姿勢を「支持しない」も55%だったが、うち3割近くが佐喜真氏を選んだ。
 調査結果には、基地負担を押し付けられている市民の複雑な感情が読み取れる。選挙中、有権者からは「なぜ宜野湾市長選で『辺野古』が争われるのか」「移設先は政府が決めること。誰が自分たちの生活を良くしてくれるかで判断する」という声をよく聞いた。すなわち、辺野古移設には反対だが、日々の生活にある「危険」をいち早く撤去させなければならないという葛藤の中、一定数の人たちが辺野古移設を投票の判断材料とせず、実績のある現職に流れたことが予想以上の差になったといえる。

◆沖縄の民意が辺野古移設支持に変ったわけではない

 「振興策」に期待して佐喜真氏に投票したという会社員の男性(42)は訴える。「普天間飛行場は早く返還してほしい。でも、同じ県内の辺野古に移すことに複雑な思いがあり、みんなが悩んでいる。だから『宜野湾市民が辺野古を選んだ』と思ってほしくない」。普天間飛行場のすぐ近くで暮らし、志村氏を支持した自営業の呉屋力さん(48)も「今度の選挙で『宜野湾市民は辺野古賛成だ』と大枠でとらえてほしくない。私たちは普天間を早く返還してもらいたいだけなんです」と語る。
 選挙結果を受け、政府は翁長知事が掲げる移設反対の「オール沖縄」を「実態と大きくかけ離れている」(菅義偉官房長官)と主張した。まるで、沖縄の民意が辺野古移設支持に変わったとの印象を国民に植え付けようとしているかのようだ。しかし、複雑な市民感情や出口調査の結果が示すように、宜野湾市長選で示された民意は辺野古移設支持ではなく、普天間飛行場の早期返還だ。


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