【オルタの視点】

テレビは参院選を、どう、伝えたか

〜放送を語る会「モニター報告」より抄録〜

大原 雄


 ≪減った! テレビの選挙報道≫

 放送をウオッチングしている市民グループ「放送を語る会」のテレビ報道モニター報告については、オルタでも、安保法制化問題などの報告を伝えてきた。今回は、先の参院選の報道についてモニター報告(8・18付で公表)が届いた。「放送を語る会」の許諾を得て、概要(オルタの紙幅の関係で選挙報道と争点としての「憲法」報道に絞って伝えたい。「放送を語る会」のモニター報告全文については、同会のホームページで読むことができる)を紹介しながら、参院選に対するテレビ報道について私見を述べたい。

 「放送を語る会」(以下、「語る会」と表現する)の報告の最初の行には、次のようなことが書かれていた。「なぜこんなに選挙報道が少ないのか」。それは、私ばかりでなく多くの人が共通して抱いた今回の参院選報道への第一印象だったことだろう。「6月22日の公示日から(注、引用者/7月10日の投票日までの)19日間、番組によっては選挙関連項目が無い放送日がかなりある」という。選挙運動期間中、「なぜ、きょうはニュースに選挙項目がないのか」と、私もしばしば疑問に思ったものだ。

◆◆ 1)選挙報道の回数は?

 「語る会」の調査によると、NHK報道局の看板番組「ニュース7」は、「公示日から(注、引用者/選挙運動期間中)18回の放送のうち、実に9回、選挙関連報道が無い日だった。この期間、半分は選挙報道をしていないことになる。とくに投票日前の1週間で見ると、7月5日から8日までの4日間、選挙関連ニュースは見当たらない」という。全国の有権者が権利を持っている国政選挙の報道について、公共放送を標榜するNHKがこれほど不誠実な報道ぶりしかしない、というのは、問題が残ると私も思った。「語る会」の調査によると、NHK「ニュースウオッチ9」も、投票日直前の7月7日、8日でも選挙報道をしていない、という。このほか、民放では、日本テレビ「NEWS ZERO」やフジテレビ「みんなのニュース」は、NHK同様、選挙報道の回数が少なかった。一方、テレビ朝日「報道ステーション」、TBS「NEWS23」は、ほとんど休まず、ほぼ毎日、選挙報道を続けていた、という。

◆◆ 2)さて、放送時間や伝え方は?

 選挙報道は、運動期間中は、やはり、毎日動きを追いかけて報道すべきことは勿論だが、報道の内容、伝え方なども重要である。参政権のある有権者に判断材料を提供することは、選挙報道の必須の要素の一つだろう。例えば、選挙戦で争われる争点、あるいは、争われるべき政治状況なのに争点を隠している場合には、それを明確化させ、さらに、多元的に、多様に、客観的な事実を伝えるべきだろう。「語る会」によると、例えば、7月3日のNHK「ニュース7」では各党党首の街頭演説を取り上げていた。各党首の演説を放送した秒数と各党首が主張したテーマは、次の通りだった、という。

自民党・安倍首相「テロから内外の日本人の命を守るために万全を尽くす」(42秒)。
民進党・岡田代表「子供の6人に1人が貧困。政策が間違っているからこうなる」(30秒)
公明党・山口代表「政権が安定しているから政治が進む。民進・共産に将来の政治を任せるわけにはいかない」(24秒)
共産党・志位委員長「自衛隊の合憲・違憲が問われているのではない。自衛隊を海外の戦争に派遣するのがいいかどうかだ」(22秒)
おおさか維新の会・松井代表「大阪でやっている改革を全国に広げる」(20秒)
社民党・吉田党首「安倍政治の暴走を止める選挙。改憲勢力に3分の2を与えない」(18秒)
生活の党・小沢代表「安倍内閣成立以来、国民の実質所得は減少。これを変えないといけない」(16秒)
日本のこころ・中山代表「所得が増える経済政策を。公共事業を全国で広げる」(15秒)
新党改革・荒井代表「何でも反対の野党と違う。威張る与党に歯止めをかける新党改革」(10秒)

 私のテレビ選挙報道の経験からすると、秒数配分と演説の中身の選択は、番組の統括責任者が二つの要素について判断して決めている、と思う。1)一応、参院の議席数を踏まえて、これを大雑把に反映する形で政党別に目処をつけた秒数配分、順番も議席数順、2)意味の伝わる演説の「ひとかたまり」を抜き出して秒数配分と両立させようとする映像編集の手法を取る。こういう映像編集の仕方は、民放でもほぼ踏襲している。例えば、6月25日のフジテレビ「みんなのニュース」は、公示後最初の週末の各党党首の街頭演説を伝えようとした。

 自民党・安倍首相(23秒)、公明党・山口代表(20秒)、民進党・岡田代表(20秒)、共産党・志位委員長(20秒)、社民党・吉田党首(14秒)、生活の党・小沢代表(19秒)、新党改革・荒井代表(15秒)、おおさか維新の会・松井代表(15秒)、日本のこころ・中山代表(17秒)だったという。

 フジテレビは、NHKほど厳密な秒数配分ではなく、20秒の政党、15秒の政党を大雑把に二つに分けたのだろう、と推測する。例えば、15秒組では、プラス2から4秒・マイナス1秒とばらつきがあるが、政党関係者からクレームがきたら、説明できるようにしておく、という発想だと思う。

 こういう選挙報道のあり方について、「語る会」のモニター報告では、次のような問題提起をしている。

 「このように、ひとり10秒とか15秒とかの主張を並べる方法は、選挙戦の雰囲気を象徴的に伝える演出としてはないわけではない。しかし、この種の主張の羅列はこの二つの放送だけではない。選挙報道ではいわば定式化されている。はたしてこれで有権者の判断に役立つ選挙報道といえるだろうか」。多分、「情報内容」の判断にあたって、「判断に役立つ選挙報道」という意識よりも、政党関係者からクレームが来ない範囲に押し込めるという意識を優先させている、と思われる。

 NHKと民放の番組統括責任者は、次のような判断に立って、こういう編集方針を打ち出しているのではないか。これは、選挙前の参院の現有議席数の配分を按分したものだ、という理屈をクレームに対して主張する、と推測される。しかし、これは、おかしくはないか。公職選挙法に基づく「政見放送」などは、時間の機械的平等とか、現有議席数の配分を反映させるとか、何らかの説明できる基準は必要だろうが、普通のニュース枠で報道する番組の場合、報道の自由という原則に立って、有権者が十分に判断できるような情報を提供するという番組の編集方針に基づいて報道すべきなのではないのか。

◆◆ 3)ならば、テレビは選挙の争点をきちんと伝えることができたか

 例えば、結果的に最大の争点となったのが、参議院でも憲法「改正」(改変)発議のできる「議席数3分の2」というラインを巡る攻防である。当初、与党側はこの争点をひた隠ししていた、と思われる。

 「語る会」のモニター報告でも、私と同じような問題意識を持っていた。参院選の結果、非改選と合わせて「改憲を目指す勢力が3分の2以上を占めれば、戦後初めて衆参両院で改憲勢力が3分の2を超え、憲法改定の動きが一気に加速することが予想された」という。

 つまり、戦後71年を迎え、日本の議会政治史上、初めて「改憲」(憲法改変)が手続き上可能になる政治状況が生まれる、ということになる。

 報告にもある通り、民進党、共産党など野党4党は、安保法制化を白紙に戻し、立憲主義を取り戻す、という基本的合意に基づき、全国に32ある「1人区」という選挙区で野党統一候補を実現させた。戦後例をみない選挙の取り組みであり、与党が党利党略で「争点隠し」をしようと、野党が、限られた合意点ながら、歩調を合わせて、その共通政策には憲法改変を阻止する、という争点を明確に打ち出していた。政治的公平性を優先するなら、与党の争点隠しと野党の争点明確化の双方をきちんと対比的に公平に有権者に知らせるべきだっただろう。今回の参院選の最大の争点は、憲法改変を発議できる議席数を衆院に続いて、参院でも可能にするかどうか、ということだったのは明瞭なことだったろう。その証拠に、参院選の結果、非改選議席と合わせて与党が3分の2の議席ラインに達したことが確認されると、安倍首相は、早速、衆参両院の憲法審査会で改憲問題を議論すべきだと、言い出したではないか。

◆◆ 4)各局の争点「設定」は?

 「語る会」のモニター報告に耳を傾けよう。モニター報告をまとめた「語る会」が整理した「各局の争点設定」は、以下の通り。

*NHK「ニュースウオッチ9」は、6月27日に「経済対策・アベノミクス」、28日に「社会保障」、29日に「安全保障と憲法」という3つの争点をあげた。
*テレビ朝日「報道ステーション」は、6月20日に「憲法」、23日に「社会保障と財源」、27日に「イギリスEU離脱への対応」、28日に「低年金・無年金問題」、7月5日「経済、アベノミクス」、7月6日「安保」と、6つの争点を設定した。
*TBS「NEWS23」は、6月29日に「憲法」、7月7日に「経済」を取り上げた。
*日本テレビ「NEWS ZERO」は7月1日に「アベノミクス」、8日に「憲法」を取り上げている。

 「語る会」の報告は、次のように言う。

 「これらの争点設定を見る限り、4つの番組が自公の『改憲隠し』には従わず、改憲問題を一応の争点として掲げていたと言える」という。一方『ニュース7』では、『改憲問題』を争点と設定した企画はなかった。また『みんなのニュース』はアベノミクスが選挙の争点という姿勢が基本で、改憲問題を独自に扱っていない」という。

 以下は、NHK「ニュース」を見聞きする度に私も気になったところだ。「ニュース7」の武田アナウンサーは、政治部が出稿した原稿を元にしていると思うが、「安倍政権の経済政策、アベノミクスなどが争点になる第24回参議院選挙」と、恰も客観的な「枕詞」のようにニュースの度にテレビ目線の先にあるプロンプターを通じて原稿を読み上げていたことだ。

 報告では、次のように書いている。「これは政権の主張と重なる表現で、この番組では争点としての改憲問題が意識されていないことを示していた」。本当に、これは特定の政党のプロパガンダのスローガンの表明であって、客観的に事実を報道する報道機関の「客観的な原稿」の体をなしていないと思ったものだ。

◆◆ 5)テレビは、改憲(憲法改変)問題を、どう伝えたか

 さて、いよいよ、今回の「語る会」の参院選挙報道モニター報告のハイライト部分に入ってきた。以下、できるだけ、報告の引用を優先したい。

*テレビ朝日「報道ステーション」(6月20日放送)は、参院選の争点シリーズのトップに「憲法改正」を挙げ、10分近くで報じた。

 番組では、まず「憲法改正」が投票先を決める決め手になるかという問いに、51%が「そう思う」と答え、「思わない」33%を上回ったという世論調査の結果を伝え、「今日は『憲法改正』について考える」、とした。

 続いて、1月の記者会見での安倍首相の「憲法改正については参院選でしっかり訴えてまいります」という発言のVTRを挿入、ナレーションで「40回の街頭演説で憲法改正について全く触れていない」と指摘した。前言を平然と翻す首相の態度を端的に示す編集だった。

 この後、自民党草案の「日本国は天皇を戴く国家とする」、という前文、「国防軍の創設」「国旗、国歌の尊重、家族の助け合い、憲法尊重等々、国民の義務の規定」の増加など、草案の重要部分を画面上に示した上で、各党の主張を整理、紹介した。

 最後に後藤謙次コメンテーターが、「安倍首相は選挙後憲法調査会(注、引用者/「報告」のママ)を動かしていく、と言った。本音が出てきた。どんどん憲法問題の議論を深めていきたい」と指摘、富川キャスターは「ここ最近の選挙のあとに、秘密保護法や安保
法制とか、あれっ国民の信を問うてないじゃないか、ということもありましたからね。ちゃんと争点にしてくれればね」などと述べている。改憲を争点にしない傾向を暗に批判したと受け取れるコメントだった。

 このほか「報道ステーション」は、6月21日のスタジオ党首討論で、冒頭から20分近く憲法を争点にした。7月7日は東京選挙区の候補に改憲問題にしぼってインタビューしている。自民党の改憲草案にまで踏み込むニュースが少ないなかで、こうした「報道ステーション」の姿勢は評価に値する。

*NHK「ニュースウオッチ9」は、6月29日、参院選の争点のひとつとして「安全保障と憲法」をあげ、全体で11分、うち改憲については7分弱で伝えた。憲法記念日の改憲派、護憲派の集会のVTRのあと、各党の主張を記者が整理して約5分で解説している。

 キャスターが「私たちは今回の選挙で、憲法についても大きな選択を問われているということか?」と尋ねたのに対し、記者が「国の大きな方向性を決めるという意味では、子や孫の世代に深く関わる問題といえる」と答えている。このコメントは評価できるが、それほどの問題を、各党の主張を5分間羅列して終わるだけの放送ではあまりに簡略に過ぎた。

 このコーナーでは、自民党の改憲草案の内容は紹介されていない。また、テレビ朝日「報道ステーション」で紹介された安倍首相の「……参院選でしっかり訴えてまいります」という記者会見の発言は組み込まれていない。この発言を紹介することは選挙中の安倍首相の姿勢を批判することになる。避けたのではないかという疑いを持たざるを得ない。自民党が目指す改憲の方向と具体的な内容を伝えないことと併せて、NHK「ニュースウオッチ9」の「改憲」の争点解説は腰の引けたものとなっていた。

*TBS「NEWS23」は6月29日、8分程度で憲法問題を取り上げた。憲法を学ぶ集会での「緊急事態条項」に関する講師の「これを入れられたら終わり、というくらい恐ろしいもの。憲法改正は隠されたメインテーマ」という言葉を紹介した。

 メインキャスター星浩氏は、「星浩の考えるキッカケ」のコーナーで、国民の憲法尊重義務を定めた自民党改憲草案と現憲法を比較し、立憲主義について「与野党でよく検討してほしい」と提起した。

 これらの指摘は意味があるが、肝心の緊急事態条項の内容は示されず、9条の改変、国防軍の創設、表現の自由の制限、といった自民党改憲草案の重要な内容は伝えられていない。安保法案に批判的姿勢を貫いた「NEWS23」としては、憲法問題の放送がこの程度で1回しかない、というのは前年度までの「NEWS23」からの後退というべきである。

*日本テレビ「NEWS ZERO」は、投票日直前7月8日、ようやく憲法問題を取り上げた。番組では、各党の「憲法改正」のスタンスを比較したあと、村尾信尚キャスターが「仮に“改憲勢力”が3分の2をとって、国会で本格的に議論が始まっても、この参院選で有権者の考えを具体的に聞いていない以上、この議論には限界がある」と指摘した。このコメントはキャスターの一定の良識を示したものといえる。しかし、6分間の放送はあまりに短く、各政党の主張を並べるだけにとどまり、改憲内容の検討までには至っていない。

◆◆ 6)本当の「争点」。与党は、憲法のどこを改変しようとしているのか

 この後、「語る会」の報告は、原理的な指摘をする。
 「憲法改正」に関する選挙報道で最大の弱点は、この問題が一般的な「憲法改正」という用語で伝えられ、その具体的内容が追及されなかったことである。

 強力な改憲勢力である自民党は、(注、引用者/政権交代時の野党時代に作ったとは言え)既に憲法改正草案を発表しており、その内容は明確である。改憲派の中で、自民党の主張は、改憲を推進する現実的な力を持ったものとして他党とは比較にならない重さがある。争点として取り上げるのであれば、自民党が憲法の何を改定するのかの情報が報道の核心でなければならなかった。

 「憲法改正」という一般的な争点があるのではない。最大与党の自民党が(注、引用者/憲法の)何を変えようとしているかが争点だったはずである。しかし、自民党改憲の具体的な内容をあげて争点として提示する番組はテレビ朝日「報道ステーション」以外にはほとんどなかった。情報量の不足と相まって、この点が「改憲問題」の報道の基本的な問題点であった。

 もう一つの弱点は、これほどの大きな争点でありながら、テレビ朝日「報道ステーション」以外の番組は、改憲問題にかける時間量が6〜8分程度で、内容的に不十分だったことである。

 NHKは、「ニュース7」では扱わず、「ニュースウオッチ9」では実質7分程度だった。このNHKニュース2番組の姿勢には大きな疑問が残る。

◆◆ 7)「野党共闘」の評価

 「語る会」の報告は、続く。
 なお「改憲」という争点に関連して、32の選挙区で成立した野党共闘の評価については(注、引用者/与野党の)鋭い対立がみられた。自公は「野党共闘は政策が違う政党の野合」と非難し、野党4党側は「安保法廃止、立憲主義回復」という大義で合意した共闘だと反論した。

 報道は、野党共闘に注目して、1人区の取材も行い、党首討論や街頭演説で対立する主張を伝えた。しかし、全体を通じてみると、有権者がこの対立について判断するための情報が十分に伝えられたとは言えない。

 この共闘には、政党だけではなく、安保法に反対した全国的な市民運動の関わりが大きかったが、こうした市民の動きや、野党4党と市民連合が具体的な政策で合意していたことなど、重要な事実がほとんど伝えられなかった。争点の背景に何があるかを伝えるという点で問題を残した経過と言える。

 「語る会」の報告の抄録は、以上である。
 報告を読んだ感想と私が選挙期間中に目に触れたこと、普段から感じていることを踏まえて、最後に私も言いたいが、今のマスメディアは、選挙報道に限らず、政界や権力がらみのニュースなど、政党や権力がこまめにチェックをしてクレームを言ってくる問題を、放送後の対応が面倒くさいという理由で、以前のように時間を十分に取って、きちんとした内容で伝えようという積極性を失っているのではないか、ということだ。マスメディアの忖度、自粛、萎縮。それが、各局横並びで比較される今回の選挙報道モニター報告のようなものでまとめられると、その実相が改めて浮き彫りになってくる。普段の政治ネタのニュースでも、極右の政治団体のように「熱心に」言ってくるものに対しては、恰も「(うるさいもの)に蓋」「触らぬ神に祟りなし」とばかりに「手抜き」をし、視聴者にきちんと伝えないことが日常的に蔓延化しているのではないのか。

 もう一つの危惧。実名報道が減っている、ということだ。先に起こった障害者施設での大量殺人事件。被害者の実名が取材できていない。匿名で報道することと実名で取材をすることは両立する。匿名報道は、マスメディアの各社が自主的に判断すべきことだ。しかし、この事件では、被害者の匿名報道の是非判断を権力(警察)に奪われている。実名報道は、事実関係の裏付けを各社独自に取らなければならないので手間がかかる。でも、それこそ、調査報道の原点。実名に基づく調査報道の果てに、それでも最終的な報道に当たっては、匿名にするべきかどうかは、それこそ、記者とデスクで検討して決めるべきこと。他社の判断と違っても、デスクの責任。判断違いで他社の新聞が売れたとしたら、デスクは辞表を書くだろう。それが怖いから、といって、警察の判断に依存するというのはマスメディアとしては失格だろう。事実関係の裏付け取材もせず、「警察によると」という文言だけで、そのまま報道してしまう。国民の知る権利に応えていない。報道の自由を自ら閉ざしている。

 マスメディアは原点に立ち返り、ひたすらジャーナリズムたれ。報道の判断は自分たちが命をかけるべき問題。権力には判断をさせない領域が、マスメディアに残された報道の自由。大義無きマスメディアは、新聞も放送も不要。大義なきメディアは、近代民主主義社会から直ちに立ち去れ。このまま忖度、自粛、萎縮の報道を続けるなら、戦時中の軍部の「尻馬メデイア」となった大新聞(全国紙では朝日と毎日。読売は、この時代、首都圏のローカル紙)、大本営放送という国家広報部となった当時の「日本放送協会」と少しも変わらない。

 極右化に切り換えられた日本社会の「分岐点」に戻ろう。そして分岐点の転轍機を元に戻そう」、いまなら、辛うじて、まだ間に合うかもしれない?

 (ジャーナリスト(元NHK社会部記者)、日本ペンクラブ理事、オルタ編集委員)


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