【コラム】あなたの近くの外国人(裏話)(4)

日本で宗教の話しがしづらいから理解してもらえない(2)

坪野 和子


 《日本で出逢う外国人ヴェジタリアンはさまざま 1 》

 新年が明けました。本年もよろしくお願い申し上げます。
 新年早々、所用があって銀座、赤坂、スカイツリーに出かけてきました。銀座はまるで1980-90年代の香港のように免税店が増え、中国語で対応できる店員の人数も増えてきています。赤坂は英語表記が中心で飲食店はハングルが目立ち、都内で多言語表記が増えているのに、なぜかスカイツリーは文字表記日本語のみという場所の多いこと。ただし外国語を話せる店員さんや職員さんがかなりいらっしゃいました。

 だんだんと言葉の面では国際化が進んでいるのですが、食べることもまた国際化が進んでいます。「ハラル・ヴェジタリアン対応」と書かれた店頭表示が増えてきました。以前からパキスタン人などムスリムの人が経営する飲食店や食材店は存在していました。最近は「中華の穆斯林(ムスリム)飯店」なども進出し多様化がすすんでいます(経営者がどこの国のかたかはまだ把握していません)。ですが、まだまだ日本の一般の人々は、相手の宗教・習慣への理解のもとではなく、単に豚を食べない、肉を食べないといったことが多いようです。「肉が嫌いなら除けて食べればいい」「肉がダメならエビは大丈夫でしょ??」「天ぷらなら肉が入っていないから大丈夫だよね」など…。中には「日本にいるんだから我慢して食べたら」という人まで。

◆ 1.韓国人のお坊さん

 私がはじめて出逢ったヴェジタリアンは韓国人のお坊さんでした。大学院の新歓でお寿司屋さんに行きました。彼は「私は魚や肉を食べません」と言いました。すると、お寿司屋さんのおかみさんがすぐに理解して「ああ、お精進で巻物をお出ししますね」と言って巻き寿司が出てきました。かっぱ、ごぼう、山芋、たくわん、青菜(法蓮草か小松菜)、シイタケ、干瓢といとたやすく出てきました。あ…お葬式の仕出しで出しているからわかっているのねって。お坊さんの徹底したヴェジタリアンなことよりも、すぐに対応したお店が素晴らしいと当時思いました。ここでは出てきませんでしたが、ほかにも高野豆腐、厚揚げ・うす揚げ…なんていうのもあるのですね。
 ですが、この時、気づきませんでした。見えないところで…動物性が使われているのではないかと…もしかしてあの時の干瓢…出汁が何か?? もしかすると鰹出汁かもしれないと。ところが、ちゃんと昆布・シイタケ・大豆…というお精進用の出汁があったのですね。

 で、この新歓、私以外は全員お坊さん…。日本仏教が世界的に特殊だという実態も知りませんでした。来日した仏教圏の人々が不思議に思う日本仏教。そのひとつとしてお坊さんがヴェジタリアンでないこと。チベットやモンゴルの場合、野菜が少ない環境もあるので肉は食べます。妻帯はともかく、飲酒…これもある…ですが人によって喫煙。ですが、飲酒(おんじゅ)はごく稀な行事でまったくないわけではないのですが、本格的な飲酒(いんしゅ)ではありません。お酒を呑みながら寿司を食べるお坊さんたちに、さぞかし困惑したのではないかと思いきや、No!! 「日本には日本の事情がありますからね。私の国ではないのですから」当時の留学は、すべて受け入れるところから日本留学が始まっていたのでしょう。

◆ 2.キリスト教徒のヴェジタリアン

 その次に出逢ったのは、中学教員だったころ、まだ給食ではなくお弁当だった時代。アメリカ人のALT(アシスタント・ランゲージ・ティーチャー)です。彼女の場合、英国キリスト教の一部宗派での考えのもと、および環境配慮でした。私は彼女の体型からダイエットが目的なのかなって思ったら、意外とシリアスに宗教的理由だったのです。…失礼。アジア的な生類(しょうるい)共存の思想にかなり近いものがありました。
 ただアジアのヴェジタリアンとは違って宗教的な理由であることが見えにくいのです。キリスト教の行事で謝肉祭とかクリスマス(ヨーロッパは豚、アメリカは七面鳥)が具体的に理解されておらず、イメージなのでただアジアのヴェジタリアンとは違って宗教的な理由であることが見えにくいのです。

◆ 3.中華系仏教徒(台湾人)

 中華圏、特に台湾人のヴェジタリアン。さらに言うと大陸からの移民がもっとも多いのです。実はチベット仏教の信者だった…という人が多く、チベット仏教ではヴェジタリアン推奨ではないのですが、ある意味「清国」「中華民国」時代のシンクレタイズではないかと感じています。2016年、台湾に行ったとき、機内食はベジ対応でした。日本国内では、台湾人はおおざっぱなイメージの「中国人」のカテゴリーでみなされているか、日本統治時代の延長の食文化を持つ人々と思われているのか、なんでも食べると思われがちです。私としては、もっとも配慮してあげたいのは、台湾人・シンガポール人・中華系マレーシア人だと考えています。

 次回もこの話題で。

 (高校日本語コミュニケーションアドバイザー&専門学校時間講師)


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