【編集後記】 

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◎総選挙の結果は大方のマスコミが予想したように、議席数では自民党の大勝利
に終わったが、これは民主党の大惨敗というべきであろう。政党支持の指標とな
る比例区議席数を見れば、かって自民が大勝した2005年の77に対して今回
は54と大幅に減らしている。小選挙区制のマジックである。国防軍創設、集団
自衛権容認、尖閣に公務員常駐、そして改憲を声高に叫ぶ。およそ時代錯誤の安
倍自民党が政権を担おうとしている。

日本はどこに行くのか。何をなすべきなのか。私たちは67年前、無謀な太平洋
戦争で戦闘員・非戦闘員270万人が死亡し、全国66都市が爆撃され、海外に
650万人(うち350万人が軍人)が残されて、貧困と飢餓に打ちのめされ
た。この未曾有の犠牲の代償として日本が唯一得たものが平和憲法である。日本
人はこのお蔭でアメリカが闘った朝鮮戦争・ベトナム戦争・イラク戦争に戦闘員
としては駆り出されずアジアの人々に2度目の加害者とはならなかった。日本の
平和憲法はアジア人にとってもいまや公共財なのだ。私たちは、新たにできる政
権にこれの破壊を断じて許してはならない。改憲はアジアに疑心を生み日本の孤
立を深めるだけである。

中国・韓国は勿論、アメリカを含む世界の多くのメディアは、日本政治の急速な
右傾化を危惧する。五十嵐仁法政大学教授は12月8日付け毎日新聞記事を引用
し、自民党は3年間の野党を経て、リベラル勢力不在のまったく別の党に変質し
たと指摘する。これで安保・防衛だけでなく、財政・経済・原発・雇用・農業等
内政全般に小泉内閣で失敗が明らかになった新自由主義政策が強行され、ますま
す社会の貧困化と格差の拡大が進むだろう。トップの経済力が強くなれば底辺も
よくなるという所謂「トリクルダウン効果」は真っ赤なウソであることは世界的
にも証明されている。これらについて連合総研客員研究員鈴木不二一氏に『世界
規模で拡大する格差』として実証的に論じて戴いた。

◎敦賀・東通など各地原発で活断層の調査が進み、改めて地震国日本に原発立地
の恐怖が広がるが、まだ懲りずに推進しようとする者がいる。今号では供給側か
らでだけなく、取り上げられることの少ない核のゴミ処理という出口から原発を
考えるため濱田幸生氏に『「核のゴミ」処分から考える原発問題』を提起して頂
いた。

◎この号から、多方面の方々に、あまり肩ばらずに、読者に分かりやすく話しか
けて戴こうと【談話室】欄を作った。第一回は最近モスクワで開かれた「日露学
術・報道専門家会議」に出席された石郷岡建日大教授に急速に変貌しつつあるロ
シア事情のあれこれをお話し願った。日本には隣国ロシアの情報が少ない。石郷
岡氏は毎日新聞モスクワ支局長を長く務められた、数少ないロシア問題専門家で
ある。東アジアの安全保障体制は多国間協議に委ねられているのだから私たちは
さらにロシアについて知らなくてはなるまい。

◎日本の針路に関わるものとして【書評】にはドナルド・ドーア氏の好著『日本
の転機―米中の狭間でどう生き残るか―』を著者と親交の深い鈴木不二一氏に取り
上げて戴いた。ドナルド氏は良く知られているように、日本の政治・経済を非常
によく知る英国の高名な社会学者だが、この書は単に学者が書いた評論ではな
い。日本を愛する碩学が日本人にピンチをチャンスに変えて欲しいと心を込めて
寄せたメッセージである。私たちはこの提言を真摯に受け止めたい。

◎【運動資料】にはオルタの熱心な読者木村寛氏からご夫妻が長く関与された社
会福祉法人「麦の会25年の歩み」を戴いた。日本各地で取り組まれるNPOの
貴重な活動こそ「社会を変える」主体だと確信したい。【オルタのこだま】にも
木村氏から鳴門市の賀川豊彦記念館訪問記が寄せられた。いま賀川氏は日本の消
費組合(生活協同組合)創始者として高く再評価されているが彼は福祉活動は勿
論、社会主義政党・労働組合・農民組合運動の創成にも「世の中を変えよう」と
する強い意図から深く関わった。私たちは社会が混迷する今こそ、この偉大な先
達から大いに学びたい。

◎北京の楊晶さんから『先生つぎは何を話されますか』という【河上民雄追悼】
の辞が送られてきた。長年、李建華・楊晶夫妻は河上家とは家族同様の関係にあ
り、河上先生の葬儀には急きょお二人で北京から駆け付けられた。日中関係が厳
しい今こそ先生の遺志を継いで人と人との絆をますます大切にしたい。

◎【日誌】11月22日生活クラブ研修会で「戦後期社会運動と政党」を話す。
23日神保町で堀内・岡田・杉本各氏と「河上民雄氏追悼会」打ち合わせ。24
日世田谷で羽原・竹中・河野・荒木・山田各氏と篠原令氏から北京事情を聴く。
27日横浜開港記念館で『市民参加ですすめる再生可能エネルギーへの転換』シ
ンポ出席。28日大原社会問題研究所で五十嵐仁教授・木下真志研究員から保存
資料の説明と加藤勘十文書整理の打ち合わせ。

29日新宿で矢吹・岡田・中村各氏と懇談。30日仏教に親しむ会。12月1日
本郷でNPO食菜くらぶ・チャリテイコンサート。4日大分。荒木・初岡氏と国
清氏の案内で宇佐観光・6日竹中・羽原・浜谷氏と合流、村山富市元総理のオル
タ取材・懇談。7日大阪で西村徹・荒木伝・荒木重雄各氏と会食。8日大阪城
内・社会運動家顕彰堂表敬。12日仏教に親しむ会。13日東工大で田中善一郎
東工大名誉教授から「小選挙区制度の問題点」。14日ソシアルアジア研究会で
大東文化大学鹿錫俊教授から「中国の多元化と日中関係の展望」。16日仲井・
初岡・高須氏と会食。18日青山・MDオフイス・チャリテイコンサート。

                  (加藤宣幸記)

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