【編集後記】

加藤 宣幸


◎自公推薦候補が民主党前議員に敗れた7月13日の滋賀知事選は安倍政権に大きな打撃となった。政権と党に高い支持率があり、中央の強力な支援でも勝てなかったショックだけではない、10月福島、11月沖縄知事選に明らかなマイナスだからだ。これについて琵琶湖の環境保全運動など現地に詳しい公害研究会の仲井富氏に『「私雨」と「沖縄の空」—滋賀と沖縄知事選を考える』として分析して貰った。この「私雨」とは7月15日の「天声人語」で鈴鹿など小地域に降るにわか雨のこととあった。これが滋賀の極地現象から沖縄や全国に降る雨となるか否かは、まさに原発・集団自衛権・沖縄をめぐる国民と安倍政権とのせめぎ合いが決めるのだ。
   
◎3・11のあと日本を愛し米国から国籍を移したドナルド・キーン氏は、『日本は解釈改憲で「理想の国」から「普通の国」になろうとしている』(東京下町日記 '140705)と安倍政治を批判し嘆かれた。まさに戦後69年にわたって日本人が積み上げてきた「戦争をしない国」という国柄を安倍は憲法も変えずに一回の閣議決定で変えるという暴挙に踏み込んだ。彼は立憲主義の重みも近隣諸国との善隣共生の思いも感じないらしい。今、日本の政治に最も必要なのは、ありもしない想定の集団自衛権論議ではなく、いかに「東アジアに大きな平和を築く」(福田赳夫)かという構想力とその具体化への道筋・外交政策を論ずることではないか。ヘイトスピーチや北朝鮮での遺骨収集問題などを独自の立場で取り組む有田芳生参議院議員に『安倍政権の北朝鮮外交には盲点がある』として論じて戴いた。

◎歴史的・経済的に密接な関係にありながら、日本人にとって今一つ分かりにくいのがタイの政情である。軍部によるクーデター後のタイ政治の現状について、バンコクに拠点を置きアジア各国を取材するアジア記者松田健氏に、分かりやすく緊急レポート『タイ軍政を現地に見る』を寄稿して頂いた。   

【書評】就任して1年余も首脳会談が持てない異常な日中関係について、小沢征爾氏は『国家関係がどうであろうと、人間同士は何も変わりはない』と喝破された。人間であることに中国人も日本人もまったく変わりはない。私たちは国家関係が緊張し、書店には嫌中・憎韓本が溢れる今こそ市民同士の交流を拡大し、等身大の相互認識を深めたい。先月、オルタの執筆者南雲智大妻女子大教授・徳泉方庵助教両氏が共訳された中国のベストセラー『中国式離婚』が論創社から上梓された。駒澤大学李教授のご尽力により新鋭の当代中国文学研究者上村ゆう美氏に評して頂くことが出来た。一人でも多くの方に手にして貰いたいと思う。

【自由へのひろば】先月休載した『インド・ブータン紀行』のほかに、大妻女子大学助教授延恩株氏に『「セウォル号」沈没から思うこと』として日本人にも関心が高いこの事件について在日韓国知識人としての率直な感想を戴いた。私たちは亡くなられた方々に深く哀悼の意を表するとともに韓国の人々がこの不幸を乗り越え、さらに前進されることを願う。

◎【日誌】6月22日・「明大・外国人労働者と連帯する会」主催・『オリンピックのために使ってはならない外国人技能実習制度』緊急集会。24日・「ソシアルアジア研究会」・丸山茂樹・韓国社会運動の現状。共同通信社・「不安定研究会」・柿崎明二・安倍政治の分析解剖。29日卒寿誕生会・家族。30日・生活クラブ・ゆうエージェンシー株主総会。

7月7日・横浜・『日中関係の未来を拓く』・岡崎真。9日・生産性本部労働研究センター・岡田一郎・『政党と労働組合』。11日・学士会館・北東アジア動態研究会・浅井基文・『東アジアの現在をどう読み解く』。12日・明大・協同組合新理論研究シンポ『非営利組織の働き方』・『日本の協同組合法制について考える』。13日・青山学院大学・国際シンポ・『アジア地域統合を考える』・「転換期の日本—パクス・アメリカーナかパクス・アジアーナか」<領土歴史問題を超えて>。14日・自宅・カリフオルニア大・プルシエック氏・日本社会党とドイツ社民党外交政策比較研究。17日・新宿・岩根サロン。

                           (加藤宣幸 記)


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