【編集後記】 

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オルタ48号編集後記
◎ 2007年は参議院の与野党逆転・自民党大敗が戦後政治史に1ページを刻ん
だ。さらに暮れになると、報道各社が一斉に福田内閣の支持率急落を報じ、
なか には危険水域といわれる30%台になるものまで現れた。国民として
は、競争原理至上主義で社会を歪め、靖国・改憲で喧騒を極めたタカ派の小
泉・安倍内閣が無残に破綻し、思慮深げな福田総理に替わって、なにやら
「ホット」したのは確かだった。しかし、それは3月ともたないことになる。
  
  政府与党の最重要課題という給油継続の支持は広がらず、防衛スキャン
ダル・年金公約違反・肝炎問題処理と難問が山積しながら総理の声は一向に
聞こえない。国民の不満が嵩じる筈である。世論調査では国民の多数が来春
までの解散を望んでいる。福田総理が、これを無視し解散権を握って逃げ回
わっても果たして国民が認めるだろうか。まさに2008年は冒頭から波乱含み
の年になりそうである。

◎ 荒れ模様の新年に臨む「オルタ」としては、まず羽原清雅帝京大学
教授に『2007年政治動向の総決算』として、小泉・安倍政権から福田内閣の
実現に至る本年の国内政治を総括し、08年への課題を提起して頂いた。元朝
日新聞政治部長としての確かな観察力は事態の本質を読者にお伝えしてい
る。
次いで船橋成幸氏には『揺れる政局のキーパーソン』として民主党小沢代表
が[大連立」協議に応じた不可解な政治行動を鋭く批判し、民主党の政権獲
得は、あくまでも選挙という「王道」によるべきことを説いていただいた。
船橋氏は旧労農党から日本社会党に合流し、非議員の中央執行委員として活
躍された生粋の政党人であるが、飛鳥田一雄横浜市長の側近として革新市政
を内側から支えた行政経験も持たれ、著書には『戦後半世紀の政治過程』
(明石書店)がある。

◎ この号では、定期・連載のもの以外に七里敬子さんの『世界が100人の村
だったら』のほか、久々にアジアジャーナリストの松田健氏に日印関係につ
いて『まだ小さい日印関係』を、力石定一氏には『CO2削減を地元環境の
なかで求めよう』のご寄稿をいただいた。松田氏は2回目、力石氏には何回
もいただいているので改めてのご紹介はしない。  
七里敬子さんは、西村徹先生のご紹介で「オルタ」の読者になり、文中に
もあるように大阪府熊取町で熊取文庫連絡協議会員として子供たちのために
ボランタリー活動をつづけておられる。『世界が100人の村だったら』はあ
まりにもよく知られた本であるが、原作は「1000人」であったものが「100
人」になったことで環境・教育・医療などの重要な問題が除外されてしまう
という指摘は七里さんという地道な実践家からの発言だけに重い。

◎ かつて長洲一二神奈川県知事は、戦後の日本で始めて『地方の時代』を提
唱し、多くの制約の中で文字通り「革新自治体」を創ろうと奮闘し、実績を
残された。その長洲知事の補佐官として知事を支え続けたのが副知事の久保
孝雄氏である。しかも久保氏は副知事退任後も長く県の関連組織サイエンス
パーク社長として、ベンチャー企業の育成に取り組み、地方行政の改革にも
関与された分権・技術革新時代の先駆者である。その久保氏が書かれた松下
圭一氏の『市民・自治体・政治』の書評は長年にわたる自治体活動の体験か
ら滲み出たものだけに、読者は単なる「書評」の域に止まらないものを感ず
る筈である。なお、松下氏は若くして「大衆社会論」を発表された高名な学
者であるが、常に理論の革新に取り組まれ、政治・自治体理論学会の泰斗重
鎮としても、新しい問題提起をつづけておられる。この本はその労作の一つ
である。分権の確立が叫ばれる今の時代にこそ、読まれるべき基礎文献とし
て一読をお奨めしたい。

◎ 時節柄、連載のなかで特に注目したいのは初岡昌一郎氏が紹介されてい
る『フォーリン・アフェアーズ』誌のフィリップ・ゴードン氏による『対テ
ロ戦争』の考察である。初岡氏もコメントされているように「テロとの戦い
に勝つ」とはどういうことなのかが明快に論じられている。 この論文は
「テロとの戦い」を「給油の継続」に矮小化している政府与党の議員諸公も
是非読んで頭を冷やして貰いたいと思う。

◎ 齢が加わるほど月日の移ろいは早く、その上、毎月20日の「オルタ」締め
切りに追われていると、まさに1年があっという間に過ぎてしまう。生来の
粗忽者が慣れない編集作業に取り組むので、段取りの間違い、思い込みなど
数多く、羽原・久保・西村・篠原(孝)氏など執筆者の方々にはご迷惑をお
掛けしてしまった。謹んでお詫びするとともに今年1年「オルタ」のために
ボランタリーで貴重なお時間を割いていただいた新旧執筆者及び、ご笑覧下
さった読者各位にあらためて感謝申し上げたい。 

◎「オルタ」の継続発信にはそれなりの苦労がないわけではないが、それにま
さる喜びもある。号を追って執筆者・読者のネットワークが広がり、反響が
あるのも嬉しいが、何といっても、今年は「オルタ」執筆者にかかわる「慶
事」が多かった。
    まず、参議院の与野党逆転は国民的祝事だが「オルタ」執筆者大河原雅
子さんの参議院東京地方区トップ当選、江田五月氏の参議院議長就任は市民
メデイア「オルタ」として読者とともに心からお祝い申し上げたい。河上民
雄先生は『勝者と敗者の近現代史』(鎌倉書房)を篠原孝議員は『花の都パ
リ「外交赤書」』(講談社)をそれぞれ上梓され、富田昌宏氏が俳句で栃木
県知事賞を受賞されたのも嬉しい。ほかに出版物としては『政治家の人間
力』(責任編集北岡和義・明石書店)が江田三郎没後30年を記念して刊行さ
れ、「オルタ」の関係者としては江田五月・榎彰・船橋成幸・仲井富・初岡
昌一郎・加藤宣幸の6名が執筆に加わった。
   「オルタ」のイベントとして2月に段躍中氏を招いた『オルタ新春の集い』
や、『海峡の両側から靖国を考える』(オルタ出版室)の韓国語版が届いた
のも忘れられない。
   なお、年末にあたり、毎月、編集部の裏方としてWP入力、HPのアップ
などにご協力頂いている堺の木村寛さん、東京の西風陽子さんに改めて感謝
の意を表します。
                     (加藤 宣幸 記)  

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