【編集後記】 

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◎3.11の惨事からちょうど1年が過ぎた。復興は遅々として進んでいない。
命を家を土地を職を家族を一瞬にして奪われた人々の悲しみ。今なお故郷を追わ
れている34万の人々の苦しみ。を忘れてはならない。私たちはこの悲しみをい
つまでも共に抱きつづけるのだ。米国の碩学ジョン・ダワー教授は名著『敗北を
抱きしめて』で、多くの日本人たちが全国の都市をほぼ焼き尽くされながらも
「想像力にあふれた、多様なやりかたで疲労と絶望を乗り越え、人生をたてなお
していった姿は、人間の不屈の力の証しである」

「軍国主義のすべてを捨てて平和な世界と改革への希望に満ちた民衆の姿があっ
た」と苦しさにめげず日本人が生きる姿を書いた。天皇すら神から人になり、す
べての日本人が変わることで生き抜いた。『ガンバロー日本!』などというスロ
ーガンは必要なかった。敗戦直後は保守も革新も「もう戦争はしない」という決
意に満ち、ボロをまといその日の糧に追われながらも国中には「変わろう」。
「生きよう」。という熱気が溢れていた。

震災後の日本には、国を挙げて変わろう。変わらなくてはという熱意。軍事力も、
植民地もなくなった焦土に新しく国家を築こうとした気拍や構想力はあるのか。
残念ながら国民にヒロシマ・ナガサキ・フクシマと続けて核被爆を浴びせながら、
この国の政・財・官・学・報の指導層は誰一人責任をとらず、いまだに脱原発の
明確な国家戦略さえ明確に示せていない。

彼等が変われないなら私たち1人1人が変わるほかない。現地の人々の苦悩と他
方に恐るべき無関心とが混在するようでは災後1年の日本は少しも変わったとは
いえない。戦後一貫した経済効率優先・成長至上主義は命の大切さ、弱者への思
いやりを失わせ、中央地方の格差、沖縄への配慮欠如、原発安全の盲信などを生
んだ。日本はどのように変わるべきか。姫路獨協大学名誉教授・ソシアル・アジ
ア研究会代表初岡昌一郎氏に『「大国の虚妄」を捨て謙虚に賢明な小日本主義の
道を選択すべき時』を御寄稿願った。

◎野田政権は衆参国会議員365人が反対しているのに環太平洋経済連携協定
(TPP)交渉を全くの秘密裡に進めている。果たして政府・財界・大マスコミ
が言うような各国事情なのか。TPP反対運動に積極的に取り組む民主党大河原
雅子参議院議員が訪米・訪韓し政府機関・業界団体・労働組合・NPO・上下院
議員事務所など30箇所を精力的に回って意見交換・情報収集をされたので成果
をお聞きした。

◎予想されたようにプーチンがロシア大統領に当選した。彼は選挙中の3月1日
に日本からは朝日新聞が加わる外国主要メデイアに対して北方4島問題について
注目する発言をした。日本は今までのように「4島」を主張すれば済むのか。何
らか動くべきなのか。緊急に望月喜市北大名誉教授に「プーチン政権との本格的
領土交渉に総力を挙げて準備せよ」とするご寄稿を頂いた。

◎【書評】「ショック・ドクトリン」は、この本の副題が『惨事便乗型資本主義
の正体を暴く』となっているように訳者が『ショック・ドクトリン』を惨事便乗
型資本主義と名付けた。今の日本人はこのタイトルから東日本大震災に便乗する
大企業の行動様式を連想しやすいがそうではない。原著は2007年に刊行され、
シカゴ学派の新自由主義が全世界的規模で国家改造という荒々しい手口を使い経
済的実権をいかに手にするかを実証的に書いた世界的ベストセラーである。日大
講師岡田一郎氏にタイムリーなこの好著の紹介をお願いした。

◎米国の世界一極支配構造は弱まりつつあるが、その動向は世界に大きな影響を
及ぼす。なにしろベトナム・アフガン・イラクと、欲すれば世界のどこでも戦争
を始められる太国である。その権力を握る大統領選挙とあって、先回は民主党の
オバマとクリントンの争いを、今回は保守派と超保守派が中傷合戦を繰り広げる
共和党の混戦ぶりを世界は注視している。オルタは現地から武田尚子さんに第3
回【大統領予備選挙特別レポート】を送って戴いた。
なお今月の【北から南から】には、フランス・パリから鈴木宏昌氏のフランス大
統領選挙報告が送られてきた。嬉しいことだ。

◎2月24日ソシアル・アジア研究会で元経団連専務理事矢野弘典氏からリーダ
ーシップ論を聞く。28日山口希望・岡田一郎氏とオルタ編集問題など懇談。3
月3日社会環境学会でバイカル桜美林大学准教授の「内モンゴルの自然崇拝と環
境問題」を聴講。5日羽原清雅・荒木重雄氏とオルタ100号記念企画と新メデ
イア創出を相談。12日「TPPを考える国際シンポジューム」参加。14日大
河原雅子参議院議員から米国・韓国各界のTPPに関する動向を取材。16日ソ
シアル・アジア研究会で永瀬伸子お茶の水女子大学教授から「ソウル・北京・日
本の労働時間―欧米との比較に触れて―」を聴く。夜、矢野凱也・山田高・初岡
昌一郎氏と懇談。

                (加藤宣幸 記)

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