【コラム】酔生夢死

蓮舫! 悩みは率直にさらけ出そう

岡田 充


 後味の悪い議論だった。蓮舫・民進党代表の「二重国籍疑惑」である。彼女が民進党代表選挙に立候補したこの夏、日本と台湾との「二重国籍」を指弾する声が上がり、メディアで炎上した。最初は否定していたのに、途中で「台湾籍が残っていた」と謝罪するなど、二転三転する説明に批判が集中したのはご存知の通り。

 しかし「後味が悪い」のは、歯切れが悪かったからではない。第一は、日本人に“純血”を求める人達の視線。彼らが問題にしたのは、「二重国籍」それ自体ではなく、「純粋な日本人ではない」ことをあげつらったのだ。

 在日韓国・朝鮮人をののしり差別する「ヘイトスピーチ規制法」が成立したのはこの5月。レイシストたちは、国旗や旭日旗を掲げ日本人の「純血」を強調する。それは「二重国籍」を批判する側の意識と通底する。だから後味が悪いのだ。
 第二に、彼女が Facebook で「日本で生まれ、日本で育ち、日本の風土で育てられ~中略~生まれたときから日本人だという気持ちが強い」と書いたこと。台湾の二文字は全くない。日米でもあるいは日中、日韓でもいい。「ハーフ」といわれる人間は必ず「複合アイデンティティ」の悩みを抱いているはずだ。

 「生まれたときから日本人だ」と強調するのは、自分の中の「台湾人」の否定にほかならない。思い出すのは、台湾の李登輝・元総統(旧日本名 岩里政男)ら日本植民地時代のエリート台湾人が、「皇民化政策」の下で改姓名の要求に進んで応じ「日本人らしくなろうとした」ことだった。あの説明で彼女はいみじくも、問題提起した側と同様の「純血」の罠にはまってしまった。「後味の悪さ」は、批判する側とされる側が、「純血」という虚構で「手打ち」しようとしたことにある。

 台北支局にいたころ、台湾に来た蓮舫と知り合った。その後同じ会合でよく顔を会わせ、食事も何度かした。上昇志向が強い性格は好きではないが、政治家志望なら大目に見たい。頭脳の運動神経の良さに加え、中国や台湾問題に関心を寄せているのもよい。もし「若い頃、日本人か台湾人かで悩んだ」と率直にさらけ出していれば、彼女に付きまといがちな「あざとい」印象が拭えたと思う。

 問われているのは結局「日本人ってなんなの」ということに気付く。答えは「日本国籍を有する者」しかないのだが、「純血」幻想は簡単には消えない。いつの間にか、想像上の「純血」と「非純血」との間に線引きしている自分がいる。日本人のルーツは縄文人、北方系騎馬民族、南方系海洋民、朝鮮半島経由の北方漢人系などさまざま。「複雑な混血の結果が今の日本人。純粋かつ一系の日本民族というものは存在しない」というのが専門家の見方である。

 (共同通信客員論説委員)


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