【戦後70年を考える(4)私にとってのアジア】

21世紀に生きるものの英知を発揮しよう

村田 忠禧


◆安倍政権の恣意的「中国脅威論」

(1)東シナ海(東海)のガス田開発問題。油井を掘るのに100mの間隔が確保を満たしておれば問題はないのが日本のルール。しかも日本側の主張する中間線より5kmも中国側に位置する海域でのガス田開発がなぜ問題なのか。ガス田施設の軍事転用について騒いでいるが「グローバル企業のCNOOCの行動規範(コンプライアンス)に対して欧米投資ファイナンサーのきびしいモニタリングがあるから、軍事転用の可能性は到底考えられない。」(「新・ジオポリ」15年7月号)

(2)「防空識別圏」を先に設けたのは日本。日本のは良いが中国のは駄目、とする根拠はどこにあるのか。両者には重複する部分が存在する。不要な衝突を防ぐため、双方は協議すべきである。

(3)10年9月の漁船と巡視船の「衝突」事件。巡視船が撮影した映像からは漁船が接近して来るように見えるが、それは地球の自転を自覚しないので、太陽が東から昇ってくるように見えるのと同じ。そもそも漁船と巡視船では運航能力に雲泥の差がある。

(4)「尖閣諸島(釣魚島)」への中国公船のパトロールを「領海侵犯」と騒ぎ立てるのはおかしい。中国にとっては自国の領海内である。「尖閣諸島を含む北緯27度以南の水域では、お互いが自国の漁船だけを取り締まる」(河野太郎のブログ「ごまめの歯ぎしり」「日中漁業協定」10年9月28日より)。

(5)日中首脳間で領有権問題での棚上げ合意はあった。「1982年9月、鈴木善幸首相が来日したサッチャー英首相(いずれも当時)との首脳会談で、沖縄県・尖閣諸島の領有権に関し、日本と中国の間に『現状維持する合意』があると明かしていたことが分かった。英公文書館が両首脳のやりとりを記録した公文書を30日付で機密解除した。『合意』は外交上の正式なものではないとみられるが、鈴木氏の発言は、日中の専門家らが指摘する『暗黙の了解』の存在を裏付けている。」(14年12月30日【ロンドン共同=半沢隆実】)。

(6)アメリカは1945年6月に沖縄占領を開始し、その後「唯一の施政権者」として占領を続け、72年5月に日本に返還した。それには「尖閣諸島」が含まれている。しかし返還したのは「施政権」であって「領有権」についてはノーコメント、中立というのがアメリカの立場。何故か。45年時点では「尖閣」は沖縄県に属しており、それを占領した。しかしいつ、どのような経緯で「尖閣」が沖縄県に編入されたのかについては関知しない、との立場。如何にもアメリカらしい狡猾さだが、事実を反映している。

(7)日本政府は「尖閣諸島は1895年1月の閣議決定で沖縄県に編入された。日本の固有の領土」と主張する。しかし沖縄県は日本の固有の領土ではない。1879年4月の「琉球処分」で沖縄県は設置されたが、それ以前は「琉球」という独立王国であった。「尖閣」が琉球に含まれているのなら沖縄県設置と同時に日本の領土になっていたはず。1895年に編入、ということは琉球には属していなかった証拠である。

(8)1885年に山県有朋内務卿は「尖閣」(当時、そのような名称はなかったが)の沖縄県編入を企てた。しかし井上馨外務卿、西村捨三沖縄県令が、清国と関係するからという理由で同意しなかった。そのため85年12月に国標建設中止を決定。その後、日清戦争で日本の勝利が確定的になった95年1月に「当時(85年)とは事情を異にする」(もはや清国への配慮は不要)ということで、沖縄県への編入を閣議決定した。同年4月には「下関条約」で台湾・澎湖諸島を永久に日本に割譲し、台湾は日本の植民地になった。

(9)今日、台湾が中国に戻っているのは1945年8月に日本がポツダム宣言を受諾したから。「尖閣(釣魚島)」も同様な扱いをすべきであった。しかし当時、双方ともこの点について気づかなかった。

◆「領土問題」を口実にして「中国脅威論」を煽る動きに反対しよう

・認識の相違が発生することを恐れる必要はない。相手を尊重する精神があれば溝は次第に埋まるもの。なにごとも平和的・理性的に問題を解決しようとする精神を堅持すべき。
・過去を感情に頼って語ってはならず、事実に基づいた客観的認識が必要である。事実を尊重する誠実さがあれば、事実の共有化は可能である。事実の共有化が実現できれば、認識も次第に共有化していく。
・しかし現実世界は多元的・重層的であり、共有化すべき事実は無限に存在する。真偽の識別や軽重の取捨選択の作業(研究)が必要だ。この作業を国家の枠を越えて共同で行い、成果を人類全体に公開していく。それが実現できれば、過去は未来を切り開くための貴重な財産として生まれ変わるであろう。
・日中間で争いになっている「領土問題」を、双方にとって受け入れ可能で、かつ互恵的な解決策とそれを現実化するための方途を共同で探索し、開拓していこう。
・領有権は棚上げにし、平和・友好・協力・共同発展の象徴として共同管理を実現するよう、双方の各界各層が知恵を出し合い、勇気を持って実践していくべきではないか。

 (筆者は横浜国立大学名誉教授)


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